婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

無視されたのが気に入らなかったのか、あの女はついにお客様にまで暴言を吐きはじめた。


「こんなのを好むようじゃ、あなたたちも情けないわね! やっぱりアイビールックを着ていないと、頭の悪さが目立つわ」


……、はあ? 何なの、この人。自分のその態度で、仲間まで冷たい目で見られてるって、まったく気づいてないわけ?


しかも、ILPクラブの名前にまで泥を塗ってる。止めもしない周りの男たちもどうかしてる。ロクでもない。


私はスマホを手に取り、こっそりとセキュリティーへ連絡を入れた。


再び視線をあの一団へと戻して──そして、私は、見てはいけないものを見てしまった。
いや、正確には“見てしまった”のではなく、“気づいてしまった”。


女の隣に立つ、ひとりの男性。その人が着ている薄紫のカラーシャツと、水玉模様のネクタイ。チノパンに、ネイビーブルーのブレザー。――それは、私がクリスマスにプレゼントしたコーディネートだった。



昨日、後ろ姿で見かけたピンクのカラーシャツも、間違いなく私の作品。ということは、あの時の人影も──


……、やっぱり、大和だったんだ。


なんで? どうして彼が、あんな人たちと一緒にいるの? それも、よりによってパステルピーターズを見下すような女と──。


胸の奥からじわじわと怒りがこみ上げてきた。思わず、椅子から勢いよく立ち上がる。

……、けれど、ふと我に返った。


ま、待て。私、バレるかもしれない?
いやいや、今日は完璧に変装してるし。
ピンクのウィッグにマスク、ワンピースも定番のアリススタイル。それに、私の身長は目立つけど、リリーちゃんたちも高めだから紛れて見えるはず。


──とにかく、落ち着こう。


私は裾上げを終えたワンピースを手に取って、待っているお客様を試着室へと案内する。その間も、あの女とその仲間たちの様子を横目で見守り続けた。


幸い、商品に被害は出ていないようだ。
けれど、あの女の口はまだ閉じない。
仲間に止められる様子もなく、むしろそれすら楽しんでいるようにさえ見えた。


……、ただのかまってちゃんなの?
こんな人を放置しているILPクラブも、やっぱり最低。しかも、その中に大和がいるだなんて。


もやもやした気持ちが、胸にずっしりとのしかかる。


その時──
やっとセキュリティーが到着した。


男たちに何か声をかけている。
しばらくして、あの一団はセキュリティールームへと連れていかれることになったらしい。


私は彼らの後ろ姿を目で追いながら、なんとも言えない感情に包まれていた。胸の奥がザラザラして、言葉にならない想いが喉の奥でくすぶっていた。