もう一度、片膝をついて指輪を差し出す大和。
「僕は君と離れる方が不幸になるんだよ。だから……、ずっと、そばにいてほしい」
まるで私の心を見透かされたかのようなその言葉と、真っ直ぐで、少しも揺るがない彼の眼差し。
もう……、何も、私には残っていない。けれどそれなら、一か八か、この先の人生を彼にかけてみるのも悪くない。
私が愛する人に、この命を託すように。
私は両手で、彼の手をそっと包み込む。そしてもう一度、確かめるように問いかけた。
「……、本当にいいの? 私なんかで、あなたを幸せにできる?」
「もちろん。ああ、僕たち2人で、幸せになるんだ。これからは僕と圭衣ちゃんのペースで、生きていこう。誰の目も気にせず、好きなことをして。誰のためでもない、自分たちの人生を」
その言葉と共に、大和は私のデザインした指輪を、左手の薬指にはめてくれた。
その瞬間、私の中で、何かが確かに変わった。
その後は、古民家の整備やさまざまな準備に追われ、気づけば数か月が、あっという間に過ぎていった。
まず最初に、大和のご両親にご挨拶をしなければならなかった。以前から、彼のご両親はいつも私を温かく迎えてくれていたけれど、今は、状況が違う。
大和は『大丈夫』と言ってくれたけれど、私の胸には不安が残っていた。それだけではない。ご両親の了承を得た次は“大家族”への挨拶も待っていたから。
正直、胃が痛くなるような思いだった。
けれど、それはすべて杞憂に終わった。
烏丸家も、大家族も、どちらも私たちに深く頭を下げて、謝罪の言葉を口にしたのだ。
もちろん、烏丸家からは結婚を正式に認められ、大和の婿入りについても『2人の思うようにして構わない』と言っていただいた。
今となっては、私が“花村”という名字にこだわる必要もなかった。けれど、それでもその言葉は、胸の奥にじんわりと沁みた。
そして、大家族にご挨拶へうかがったとき、私は初めて、“花村家が大家族から除名された”ことを知らされた。
もともと、大家族は旧華族出身の五家族によって構成されていた。それぞれが結婚しても、嫁側の実家が加わることはなかった。
花村家がその枠に入ったのは、例外中の例外だったのだ。父が大企業の社長を務めており、大家族とも旧知の関係があったため、
自然と“仲間”として迎え入れられた。ただ、それだけのことだった。
けれど、今回の一件。悠士さんと私の父との問題が、大家族の中で正式に話し合われた結果──
今後は、これまでの“例外”を見直すこととなった。
大家族は、再び原点に戻り、旧華族出身の五家族のみで構成されることになったのだ。
彼らには、旧華族としての誇りがある。そして、彼らが掲げている“抑強扶弱”──力ある者を抑え、弱き者を守るという精神を、今も大切にしている。
その理念に背いたのが、悠士さんと、私の両親だった。
結果、悠士さんには“修行”という名の処分が、花村家には“除名”という形で、制裁が下されたのだった。
「僕は君と離れる方が不幸になるんだよ。だから……、ずっと、そばにいてほしい」
まるで私の心を見透かされたかのようなその言葉と、真っ直ぐで、少しも揺るがない彼の眼差し。
もう……、何も、私には残っていない。けれどそれなら、一か八か、この先の人生を彼にかけてみるのも悪くない。
私が愛する人に、この命を託すように。
私は両手で、彼の手をそっと包み込む。そしてもう一度、確かめるように問いかけた。
「……、本当にいいの? 私なんかで、あなたを幸せにできる?」
「もちろん。ああ、僕たち2人で、幸せになるんだ。これからは僕と圭衣ちゃんのペースで、生きていこう。誰の目も気にせず、好きなことをして。誰のためでもない、自分たちの人生を」
その言葉と共に、大和は私のデザインした指輪を、左手の薬指にはめてくれた。
その瞬間、私の中で、何かが確かに変わった。
その後は、古民家の整備やさまざまな準備に追われ、気づけば数か月が、あっという間に過ぎていった。
まず最初に、大和のご両親にご挨拶をしなければならなかった。以前から、彼のご両親はいつも私を温かく迎えてくれていたけれど、今は、状況が違う。
大和は『大丈夫』と言ってくれたけれど、私の胸には不安が残っていた。それだけではない。ご両親の了承を得た次は“大家族”への挨拶も待っていたから。
正直、胃が痛くなるような思いだった。
けれど、それはすべて杞憂に終わった。
烏丸家も、大家族も、どちらも私たちに深く頭を下げて、謝罪の言葉を口にしたのだ。
もちろん、烏丸家からは結婚を正式に認められ、大和の婿入りについても『2人の思うようにして構わない』と言っていただいた。
今となっては、私が“花村”という名字にこだわる必要もなかった。けれど、それでもその言葉は、胸の奥にじんわりと沁みた。
そして、大家族にご挨拶へうかがったとき、私は初めて、“花村家が大家族から除名された”ことを知らされた。
もともと、大家族は旧華族出身の五家族によって構成されていた。それぞれが結婚しても、嫁側の実家が加わることはなかった。
花村家がその枠に入ったのは、例外中の例外だったのだ。父が大企業の社長を務めており、大家族とも旧知の関係があったため、
自然と“仲間”として迎え入れられた。ただ、それだけのことだった。
けれど、今回の一件。悠士さんと私の父との問題が、大家族の中で正式に話し合われた結果──
今後は、これまでの“例外”を見直すこととなった。
大家族は、再び原点に戻り、旧華族出身の五家族のみで構成されることになったのだ。
彼らには、旧華族としての誇りがある。そして、彼らが掲げている“抑強扶弱”──力ある者を抑え、弱き者を守るという精神を、今も大切にしている。
その理念に背いたのが、悠士さんと、私の両親だった。
結果、悠士さんには“修行”という名の処分が、花村家には“除名”という形で、制裁が下されたのだった。



