婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

時間にも心にも少し余裕ができた今、これまで苦手意識があったことに、思い切って挑戦してみることにした。

 
通い始めたのは、駅の近くにある料理教室。
おぼつかない手つきでスタートしたこの教室も、まだまだ先は長いけれど、生徒のみんなに支えられながら、楽しく続けられている。

 
もちろん、料理の腕が一気に上がるわけじゃない。でも、この場所のおかげで地元の人たちとも知り合うことができ、よそから移住してきた私にとっては、ありがたい人脈づくりにもなっている。

 
週末には、川沿いを散歩したり、ご近所を探索してカフェを見つけたり。少しずつ、この土地に自分の“居場所”ができていくのを感じていた。





縁側に横になると、つい心地よくて寝てしまう。今日も、どうやらそのまま眠ってしまっていたらしい。ふいに身体を軽く揺すられて、私はゆっくりと目を開けた。

 
「ただいま、圭衣ちゃん」

 
屈託のない、ワンコみたいな笑顔の大和。

 
そう。あの日、トランクルームから彼のマンションへ戻り、私は最後の“秘密”を打ち明けたのだった。

 
私には何もない。両親の後ろ盾も、家も、会社の代表の座も手放そうとしていた。そして彼の兄である悠士さんのことを、私はどうしても許せなかった。

 
時が経てば、直接会って謝罪を受け入れられる日が来るのかもしれない。けれど今の私は、彼から送られてきた手紙すら開封できず、そのまま涼介先生に返してしまったほど。悠士さんとのいかなる接触も、避けてしまっている。

 
その仲介を、彼らと私の間に立ってずっとやりとりしてくれている涼介先生には本当に申し訳なく思っている。

 
けれど、こんな状態で大和のプロポーズを受けるのは、どうしても気が引けてしまった。

 
私のせいで、花村家と烏丸家──二つの家族がバラバラになった。いくら彼を愛していても、その間に立たされて、彼に苦しんでほしくなかった。

 
だからあの時、プロポーズを断るつもりだった。

 
「私にはもう、何もないの。両親の後ろ盾も、Cool Beautyの代表の肩書きも。会社は葉子に譲ろうと思ってるから、しばらくは無職。それに……、悠士さんのことだけど、大和にとって大切な家族だってわかってる。
でも……、正直言って、彼が私や紫道にしてきたことは、まだ許せない。だから──さっきのプロポーズは……」

 
言いかけた言葉を、大和が遮る。
そして、思いきり抱きしめられた。

 
「僕は圭衣ちゃんと一緒になりたい。たとえ家族とも、大家族とも絶縁することになっても!」

「だ、だめだよ……。私のせいで、そんなことになったら──」

「もう、両親にも、大家族にも伝えてあるよ。みんな、僕が本気だってこと、ちゃんとわかってくれた。だから、何も心配しなくていいんだよ」


そう言って、大和は私の手を取り、再び“秘密の部屋”へと連れていく。さっき見たジュエリーケースをそっと手に取り、私に向き直った。

 
「花村圭衣さん。僕と一緒に歳を重ねて、ずっと笑っていてください。──結婚してください!」

 
差し出された婚約指輪。そのリングを、心から受け取りたいと思った。

 
彼と共に、これからも歩んでいきたい。そう願っている。

 
……、けれど。
私と一緒にいたら、彼は不幸になるのではないか?
大切な家族や仲間たちと、離れざるを得なくなってしまうのではないか?

 
私が彼といることで、彼の世界を奪ってしまうのではないか。そんな思いが、胸の奥で、まだ消えてくれない。