婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

「いつだってそうなの。あの人たちは、私が傷ついても悲しんでも気がつかない。気づくのは親以外の人たちで、心配してくれる人たち。今回のこともきっと、『花村』の名前を継ぐ人と私が別れたから怒ってるだけ。あの人たちにとって、私の気持ちはどうでもいいんだと思う。だから昨日ずっと考えていたことを、実行したの。戸籍の分籍……、もう、あの人たちとは関わらずに、自分らしく生きたい」

 
その言葉を聞いて僕は、ここで初めて圭衣ちゃんの本気の気持ちを知った。


これまで彼女が我慢できていたのは、きっと妹の葉子ちゃんと美愛ちゃんがいたからだろう。でもその2人も結婚して家を出た今、両親の婿入り要望に疑問を持つのも無理はない。『なぜ自分ばかりが』と。悠士兄ちゃんとジョセフさんの今回の行動が、結果的に圭衣ちゃんにとって“最後の一線”を越えることになったのだ。

 
ふと、以前圭衣ちゃんが言っていた言葉を思い出す。


『美愛は、私たち家族全員が望んで生まれてきた子で、葉子は、私たち家族全員が望んでうちに来てくれた子』


彼女の両親は、そうよく口にしていたらしい。……、でも圭衣ちゃんは? その言葉の中に、彼女の名前は一度も出てこなかった。

 

圭衣ちゃんはずっと1人で頑張ってきたんだ。ほんの少しでも、ご両親に認められたくて。妹たちのように。


シャキッとして強くあろうとしたのには、そんな理由があったなんて……。僕は知ってる。彼女は本当は人情深くて、誰よりも優しい人だってことを。

 
「圭衣ちゃん……、ずっと1人で我慢して、頑張ってきたんだね」

 
彼女は静かにうなずき、目を伏せたまま続ける。

 
「私には、もう何もないの。両親の後ろ盾も、会社の立場も。会社は葉子に譲ろうと思ってるから……、しばらくは無職になる予定。それに、悠士さんのことだけど、大和の大切な家族だって、ちゃんとわかってる。
でも……、正直言って、彼が私や紫道にしたことは……、どうしても、許せない」

 
そして、言葉を区切ってあの一言を口にした。

 
「だから……、さっきのプロポーズは──」

 
圭衣ちゃんの声が、そっと、心に刺さる。
僕は、黙ってその続きを待つしかなかった。