夕食を食べ損ねた僕たちは、帰宅してから軽く食事をとることにした。
冷蔵庫にある材料で、彼女の好きな卵と長ネギのシンプルなチャーハンと、中華風のコーンスープを用意する。久しぶりに圭衣ちゃんと並んでテーブルにつき、温かい食卓を囲んだ。
けれど、僕たちの間に言葉はなかった。
カチャ……、スプーンと器が触れる音だけが、静かな空間に響いていた。
ゆっくりと食べ進める圭衣ちゃんの様子をちらりと伺う。だが、ふと彼女の手が止まっているのに気づいた。
視線を上げると圭衣ちゃんは、声も出さずに静かに泣いていた。咄嗟に席を立ち、彼女の手を取る。
「行こう」
それ以上、言葉はいらなかった。
彼女をそっとリビングのソファへと導き、座らせる。次の瞬間、抑えていたものが決壊したかのように、彼女はしゃくり上げながら泣き出した。
何も言わず、ただそっと抱きしめる。強く抱きしめたら壊れてしまいそうな、細くなった彼女の身体。
あんなに頑張って、ずっとひとりで耐えてきたんだ。会社も家族も、そして僕までも手放しかけた。それでも前を向こうとしていた圭衣ちゃんが、今こうして僕の腕の中で泣いている。
「……、ごめんなさい。取り乱しちゃって」
落ち着いた表情を取り戻しながら、彼女は僕の腕からそっと離れる。
「大和……、話したいことがあるんだけど」
「無理しなくていいよ。僕はいつでも聞くから」
「ううん、大丈夫。……、ちゃんと伝えたいの。花村の両親と、私のことを」
そう言って、彼女は静かに語り始めた。
まるで一つひとつ丁寧に整理された記憶を、淡々と辿るように。
物心ついた頃から今までのこと。家族の中で、長女である自分だけが厳しくされていたこと。母・久美子さんとは事あるごとにぶつかり、いつも厳しい言葉を向けられたこと。
父・ジョセフさんはいつも母に寄り添い、圭衣ちゃんの味方にはなってくれなかった。
葉子ちゃんや美愛ちゃんには甘くて優しいのに、自分には小言ばかりだったと、圭衣ちゃんは淡々と語る。
そして大学進学を決めた時、久美子さんから心無い言葉をぶつけられ、深く傷ついた彼女は、カウンセリングを受け始めたという。
それでも誰にも言わず、ただ『お姉ちゃまだから』と自分を納得させてきた圭衣ちゃん。
今、初めてその胸の内を語ってくれた。
僕は、彼女の全てを受け止めたい。
彼女がこれまで抱えてきた傷も、涙も、過去も。
冷蔵庫にある材料で、彼女の好きな卵と長ネギのシンプルなチャーハンと、中華風のコーンスープを用意する。久しぶりに圭衣ちゃんと並んでテーブルにつき、温かい食卓を囲んだ。
けれど、僕たちの間に言葉はなかった。
カチャ……、スプーンと器が触れる音だけが、静かな空間に響いていた。
ゆっくりと食べ進める圭衣ちゃんの様子をちらりと伺う。だが、ふと彼女の手が止まっているのに気づいた。
視線を上げると圭衣ちゃんは、声も出さずに静かに泣いていた。咄嗟に席を立ち、彼女の手を取る。
「行こう」
それ以上、言葉はいらなかった。
彼女をそっとリビングのソファへと導き、座らせる。次の瞬間、抑えていたものが決壊したかのように、彼女はしゃくり上げながら泣き出した。
何も言わず、ただそっと抱きしめる。強く抱きしめたら壊れてしまいそうな、細くなった彼女の身体。
あんなに頑張って、ずっとひとりで耐えてきたんだ。会社も家族も、そして僕までも手放しかけた。それでも前を向こうとしていた圭衣ちゃんが、今こうして僕の腕の中で泣いている。
「……、ごめんなさい。取り乱しちゃって」
落ち着いた表情を取り戻しながら、彼女は僕の腕からそっと離れる。
「大和……、話したいことがあるんだけど」
「無理しなくていいよ。僕はいつでも聞くから」
「ううん、大丈夫。……、ちゃんと伝えたいの。花村の両親と、私のことを」
そう言って、彼女は静かに語り始めた。
まるで一つひとつ丁寧に整理された記憶を、淡々と辿るように。
物心ついた頃から今までのこと。家族の中で、長女である自分だけが厳しくされていたこと。母・久美子さんとは事あるごとにぶつかり、いつも厳しい言葉を向けられたこと。
父・ジョセフさんはいつも母に寄り添い、圭衣ちゃんの味方にはなってくれなかった。
葉子ちゃんや美愛ちゃんには甘くて優しいのに、自分には小言ばかりだったと、圭衣ちゃんは淡々と語る。
そして大学進学を決めた時、久美子さんから心無い言葉をぶつけられ、深く傷ついた彼女は、カウンセリングを受け始めたという。
それでも誰にも言わず、ただ『お姉ちゃまだから』と自分を納得させてきた圭衣ちゃん。
今、初めてその胸の内を語ってくれた。
僕は、彼女の全てを受け止めたい。
彼女がこれまで抱えてきた傷も、涙も、過去も。



