婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

圭衣ちゃんの地元にある、もんじゃ焼き屋に連れていってもらった。外観はかなり年季が入っていて、お洒落とは言い難い。観光地として名の知れた下町ではあるけれど、地元民しか知らないような、知る人ぞ知る穴場の店だろう。


店内に入ると、すぐ目に飛び込んできたのは、所狭しと並んだ駄菓子たち。奥には4つの鉄板テーブルがあり、壁には手書きの短冊メニューがペタペタと貼られている。決して広くはないけれど、不思議と落ち着く空間だった。


背もたれのない丸椅子に腰掛けて、鉄板を挟んで並んで座る。


僕がメニューを見て迷っていると、圭衣ちゃんが慣れた様子でスラスラと注文を済ませた。


「お兄ちゃん、もんじゃ初めてかい?」


店のおばちゃんが、優しく声をかけてくれる。


「好き嫌いあるからね。無理なら焼きそばもできるよ。あいにく、うちはお好み焼きはやってないけど」


──もんじゃ。
名前は聞いたことがあったけれど、実際に食べるのは初めてだった。


運ばれてきた具材と生地を、圭衣ちゃんが器の中でサッと混ぜると、一気に鉄板へと流し込んだ。そして、何のためらいもなく、それを手際よくヘラで薄く広げていく。


……、あれ?もんじゃって、具材で土手を作って、その中に生地を流すんじゃなかったっけ?


僕の戸惑いに気づいたのか、圭衣ちゃんが小さく笑って言った。


「ここら辺の下町では、昔からこうやって作るの。面倒な土手を作るのは、月島のやり方ね」


ぶくぶくと気泡を立てながら、鉄板の上でもんじゃがとろりと煮えていく。キャベツ、切りイカ、桜エビ、天かす、そして──ポリポリしたラーメンスナックが入っている。


まさか駄菓子が具材になるとは思っていなかったけれど、それが意外にもクセになる
味で──


気がつけば、僕は小さなヘラで夢中でもんじゃをすくい、食べていた。