婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

「はい、どうぞ」

 
紅茶と、可愛らしいピンク色のマカロンがコーヒーテーブルに並べられた。大和はスツールをテーブルの反対側に引き寄せて、私の正面に腰を下ろす。

 
なんだろう。この距離感。懐かしくて、でも少しだけ、よそよそしい。

 
所在なさを隠すように、小さく呟。


「ありがとう」


そして紅茶を口に運ぶ。


でも、胸の奥に沈殿した言葉たちは、どうしても口から出てこない。

 
本当は、前に進むために。ちゃんと、きっぱりと終わらせるために、話さなきゃいけないのに。

 
彼の顔を見ることすらできなくて、視線は自然と下を向いたまま。

 
素直になれない。どこかで、まだ意地を張っている自分がいる。

 
──早く帰りたい。

 
そんな逃げ腰の思いを押し殺していると、
カチャン……と、カップを置く小さな音が聞こえた。

 
同じタイミングで紅茶を飲んでいたのだろう。視界の端に、テーブル越しに前屈みになっている彼の姿が映る。

 
そして、低く落ち着いた声が静かに響いた。

 
「今日はここに来てくれてありがとう。そして、本当にごめんね、圭衣ちゃん。
悠士兄ちゃんがやったことは……、絶対に許されることじゃない」

 
謝罪の言葉。昨日、他の慶智の王子たちからも何度も聞いたはずのそれが、また心に響く。見えないけれど、きっと彼も今、頭を下げているんだろう。

 
「そのことは……、昨日、他の王子たちからも謝罪されたから。もういいよ。
今さら、何も変わらないし」

 
我ながら、どうしてこんな可愛げのない返ししかできないんだろう。まるで喧嘩の導火線に火をつけるような言葉だと、わかっているのに。

 
「そ、そうだよね……」

 
少し声が揺れる大和。でも彼は、しっかりと続けた。

 
「今日来てもらったのは、僕たちのことを……、話したかったからなんだ。
最後に会った前くらいから、僕のせいでギクシャクしてしまったよね。あの時、ちゃんと説明できなかったことを、今さらだけど聞いてほしくて。圭衣ちゃん……、話を、聞いてくれる?」

 
真っ直ぐに差し出された誠意。
彼は、ちゃんと自分の非を認めている。

 
私も……、もう意地を張るのはやめよう。顔はまだ見れないけど、頷きながら紅茶をもう一口。

 
すると大和が言いづらそうに話し始めた。


「実は……、僕には、圭衣ちゃんにずっと言っていなかった“秘密”があるんだ。言うのが怖かった。今まで、そのことで……、同性からは揶揄われたり、異性からは変な目で見られたりしてきたから」

 
その言葉に、ふいに顔を上げてしまった。


そして、久しぶりに見た大和の表情。そこには、優しさとほんの少しの哀しみを湛えた微笑みがあった。

 
きっとその“秘密”とは、あれだろう。彼が大切にしてきたピーターズファミリーのこと。

 
女の子向けのお人形に夢中な彼のことを、
男のくせにと笑った人もいたのだろう。


変人だ、女々しいと、遠ざけた人も──

 
でも、彼はまだ知らない。

 
私がその秘密を、ずっと前から知っていたことを。知っていて、それでも彼を好きになったことを。

 
もう少しだけ、この人の言葉を聞いていたい。そう、自然と思った。