翌朝、本籍がある地元の区役所で拍子抜けするほど、あっけなく分籍手続きが終わった。
朝イチで訪れたおかげか、戸籍住民課での閲覧制限の相談も、ほとんど待たされることはなかった。話はすべて涼介先生が進めてくれて、職員も手際よく書類を準備してくれる。
私は必要事項を記入し、あらかじめ用意していたカウンセリングファイルと一緒に提出した。
結果がどうであれ、また一歩進めた。肩に乗っていた錘が、ひとつ外れた気がした。
その後、涼介先生は事務所に戻るというので、区役所の正面玄関でお礼を伝えて別れた。
足が自然と向かったのは、昔から通っている商店街。
時間は10時を少し過ぎた頃。
あのお店、もう開いてるかな……?
商店街の奥、角を曲がった先にある、あのもんじゃ屋。ちょうど暖簾を掛けている最中のおばちゃんの姿が見えた。
「おばちゃ〜ん!」
思わず元気に声をかけると、おばちゃんがこちらを振り返る。その瞬間彼女の笑顔が、ほんの一瞬だけ固まったのが分かった。
次の瞬間には、いつもの調子で私の手を取って、黙って店の中へ。
言葉ひとつ交わさないまま、私はいつもの鉄板テーブルに座らされた。
えっ、おばちゃん……? どうしたの?
首をかしげているうちに、おばちゃんが器を手に戻ってきた。中には、私の大好物──ポリポリ食感のラーメンスナックとお餅が入った、特製もんじゃ液。
そのまま、無言で鉄板にザーッと流し込み、器用に混ぜながら形を整えていく。手際よく焼き上げる手元からは、なんだか優しさが伝わってくるようだった。
やがて冷蔵庫から、瓶入りのオレンジジュースを取り出してテーブルに置き、自分も私の正面に腰を下ろすと、小さなはがしをそっと渡してくれた。
なんだか、懐かしいな。この感じ。
2人で黙々と、もんじゃをつついていたその時ふいに、おばちゃんがぽつりと口を開いた。
「圭衣ちゃん……、あんた、遂に戸籍を抜いたんだね?」
「……!」
驚いて顔を上げると、おばちゃんは悲しげに、でもどこかホッとしたような表情で笑っていた。
「前にも言っただろ? あんたのこと、大先生に頼まれてるって。あたしはね、あんたのお母さん……、久美ちゃんの幼なじみなんだよ。久美ちゃんとジョセフさんは、この地域のことをすごく支えてくれてさ。今でもみんな、2人には感謝してるんだ。でもね……」
おばちゃんは、少しだけ目を細めて続けた。
「圭衣ちゃんが、どうやって育ってきたか……、みんな分かってるの。特にあんたが三歳の頃、あの悲しい出来事があって、久美ちゃんが変わってしまったあたりからね」
私は箸を止め、そっとおばちゃんを見つめた。
「おばちゃん……、流産のこと、知ってたの……?」
「うん。あの頃、ジョセフさんがずっと久美ちゃんに付き添ってたから、自然とね。でもほら、湿っぽくしなさんな。今日はお祝いだよ。圭衣ちゃんの、これからの人生の始まりに、乾杯!」
そう言って笑ったおばちゃんの顔は、さっきまでの悲しげな微笑みとはまるで違っていた。
あたたかくて、力強くて、どこまでも明るい、私が子どもの頃からずっと大好きだった、おばちゃんの笑顔だった。
やっぱり、おばちゃんは全部分かってたんだね。
朝イチで訪れたおかげか、戸籍住民課での閲覧制限の相談も、ほとんど待たされることはなかった。話はすべて涼介先生が進めてくれて、職員も手際よく書類を準備してくれる。
私は必要事項を記入し、あらかじめ用意していたカウンセリングファイルと一緒に提出した。
結果がどうであれ、また一歩進めた。肩に乗っていた錘が、ひとつ外れた気がした。
その後、涼介先生は事務所に戻るというので、区役所の正面玄関でお礼を伝えて別れた。
足が自然と向かったのは、昔から通っている商店街。
時間は10時を少し過ぎた頃。
あのお店、もう開いてるかな……?
商店街の奥、角を曲がった先にある、あのもんじゃ屋。ちょうど暖簾を掛けている最中のおばちゃんの姿が見えた。
「おばちゃ〜ん!」
思わず元気に声をかけると、おばちゃんがこちらを振り返る。その瞬間彼女の笑顔が、ほんの一瞬だけ固まったのが分かった。
次の瞬間には、いつもの調子で私の手を取って、黙って店の中へ。
言葉ひとつ交わさないまま、私はいつもの鉄板テーブルに座らされた。
えっ、おばちゃん……? どうしたの?
首をかしげているうちに、おばちゃんが器を手に戻ってきた。中には、私の大好物──ポリポリ食感のラーメンスナックとお餅が入った、特製もんじゃ液。
そのまま、無言で鉄板にザーッと流し込み、器用に混ぜながら形を整えていく。手際よく焼き上げる手元からは、なんだか優しさが伝わってくるようだった。
やがて冷蔵庫から、瓶入りのオレンジジュースを取り出してテーブルに置き、自分も私の正面に腰を下ろすと、小さなはがしをそっと渡してくれた。
なんだか、懐かしいな。この感じ。
2人で黙々と、もんじゃをつついていたその時ふいに、おばちゃんがぽつりと口を開いた。
「圭衣ちゃん……、あんた、遂に戸籍を抜いたんだね?」
「……!」
驚いて顔を上げると、おばちゃんは悲しげに、でもどこかホッとしたような表情で笑っていた。
「前にも言っただろ? あんたのこと、大先生に頼まれてるって。あたしはね、あんたのお母さん……、久美ちゃんの幼なじみなんだよ。久美ちゃんとジョセフさんは、この地域のことをすごく支えてくれてさ。今でもみんな、2人には感謝してるんだ。でもね……」
おばちゃんは、少しだけ目を細めて続けた。
「圭衣ちゃんが、どうやって育ってきたか……、みんな分かってるの。特にあんたが三歳の頃、あの悲しい出来事があって、久美ちゃんが変わってしまったあたりからね」
私は箸を止め、そっとおばちゃんを見つめた。
「おばちゃん……、流産のこと、知ってたの……?」
「うん。あの頃、ジョセフさんがずっと久美ちゃんに付き添ってたから、自然とね。でもほら、湿っぽくしなさんな。今日はお祝いだよ。圭衣ちゃんの、これからの人生の始まりに、乾杯!」
そう言って笑ったおばちゃんの顔は、さっきまでの悲しげな微笑みとはまるで違っていた。
あたたかくて、力強くて、どこまでも明るい、私が子どもの頃からずっと大好きだった、おばちゃんの笑顔だった。
やっぱり、おばちゃんは全部分かってたんだね。



