婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

もんじゃを食べ終えたあと、実家には寄らなかった……というより、もう寄る必要なんてなかった。


そのまま、今の住まいである紫道の工房の2階へと戻る。次の約束まで、まだ数時間ある。

 
これが終わればもうひとつの錘も、取り払える気がする。

 
もっと、軽くなれるはず。

 
たぶん、彼と会うのも、これが最後。

 
その後、新しい住まいを探そう。もう、悠士さんに邪魔される心配はないのだから。

 
紫道から借りている部屋は、一時的な仮住まいとしては十分だけど、長く住むには少し狭すぎる。 

 
大好きなピーターズファミリーも、まだトランクルームに預けたまま。本当は、少し長めの旅行にでも行こうと思っていた。けれど、それも延期になってしまったし。

 
いっそ引っ越して、自分だけの『城』を手に入れようか?

 
どこに住む? 
東京? 
それとも、東京近郊?


何部屋にしよう? 
収納は? 
日当たりは?

 
夢はふくらむばかりだけど現実的には、今の私は無職。正直、賃貸契約はかなり厳しい。


でも、おじいちゃまの遺してくれた小さな遺産と、大学時代からコツコツ続けている投資がある。


条件次第では、安い中古物件を現金一括で購入できるかもしれない。

 
ま、まずは目の前のことを片付けてから考えよう。これからは、時間だけはたっぷりあるのだから。

 
よし、そろそろ出発の準備をしよう。





「はぁ〜……」

 
深いため息が漏れる。

 
とうとう、この時が来てしまった。

 
できることなら、回れ右して帰ってしまいたい。けれど、それもできないと分かっている。

 
やっぱり、気が重い。

 
到着したのは、あの高級マンション。
かつては何度も訪れた場所。

ここには、仁さんを除く《慶智の王子》たちが暮らしている。できれば、混雑したカフェか、どこか別の場所でちゃちゃっと話を終えたかった。

 
でも彼の強い希望で、今回の話し合いは自宅で行うことになった。

 
重い足取りのまま、コンシェルジュに名前を告げる。すでに連絡が入っていたようで、すぐに通される。今まではただ挨拶をしてスーッと通れたのに。

 
エレベーターに乗り、上の階へ。

 
そして、静かな廊下を一歩ずつ進んでいく。

 
どんな顔をして会えばいいんだろう?
何を話せばいいんだろう?

 
どんなにゆっくり、ゆっくり歩いても、彼の部屋の前に着いてしまう。

 
玄関の前で立ち尽くす。インターフォンに指を伸ばすが、そこで止まる。心の中に、あの言葉がよみがえる。

 
最後に会った、あの日。私が、大和に言い放った言葉。

 
『今さら話すことはないから。あなたがそうしたの。私の鍵をこのテーブルに置いて、早く出て行って』

 
あの日の表情が、声のトーンが今もなお、鮮明に焼きついて離れない。

 
それでも。
今日は、話さなきゃいけない。