ここで、葉子が静かに口を開いた。
「あの時、あたしは仁と婚約もしてたし、リモートで仕事をするって言っても、実際にはオフィスでなければできないこともたくさんあったの。でも、それを全部無視して、あたしは自分の我儘を通したの」
少し自嘲するような笑みを浮かべながら、葉子は続ける。
「それなのにね、父さまと母さまからは一切叱られなかったの。……、むしろ、心配ばかりされてた」
その言葉に、美愛が小さく息を呑む。
「……、あたし、実は立ち聞きしちゃってたんだよね。圭衣と母さまが大学のことで言い争ってるの。あの時は、圭衣が期待されてるからって思ってた。でも今なら分かる。確かに、長女の圭衣と、あたしたち妹への接し方って、違ってたんだって」
「えっ、あれを聞いていたの?」
思わず問いかけると、葉子はうなずいた。
「うん……。母さま、あたしと美愛には絶対言わないようなことを圭衣に言ってた。しかも、すごく責めるような言い方で……。圭衣がどうしてあんな風に言われなきゃいけないのか、ずっと分からなかった」
私はそっと微笑んだ。
「……、あなたたちに、あの人たちを嫌いになれって言いたいんじゃないの。ただ、私はこれから、もう誰かの期待や役割に縛られずに、自分のままでいたいだけ。だから新しい道に進みたいの」
葉子はゆっくりうなずき、美愛は悲しそうな目で私を見つめていた。もう彼女は何も言わなかった。きっと、理解してくれたのだと思う。
私は静かに顔を上げて、涼介先生を見つめる。
「涼介先生、私の気持ちは変わりません」
「そうか……。じゃあ、もう一度だけ確認させて。今の日本の法律では、分籍しても親子の縁が完全に切れるわけじゃない」
「はい、それは分かっています」
少し間を置いてから、私はためらいがちに尋ねた。
「あの……、私の場合、戸籍や住民票の閲覧制限はできませんよね? 特に、DVとかストーカー被害があったわけでもないので……」
涼介先生は黙ったまま、深く考え込んでいた。
やっぱり、無理かもしれない。
暴力を受けたわけじゃない。
ただ、ずっと、ずっと愛されなかっただけ。
「あの時、あたしは仁と婚約もしてたし、リモートで仕事をするって言っても、実際にはオフィスでなければできないこともたくさんあったの。でも、それを全部無視して、あたしは自分の我儘を通したの」
少し自嘲するような笑みを浮かべながら、葉子は続ける。
「それなのにね、父さまと母さまからは一切叱られなかったの。……、むしろ、心配ばかりされてた」
その言葉に、美愛が小さく息を呑む。
「……、あたし、実は立ち聞きしちゃってたんだよね。圭衣と母さまが大学のことで言い争ってるの。あの時は、圭衣が期待されてるからって思ってた。でも今なら分かる。確かに、長女の圭衣と、あたしたち妹への接し方って、違ってたんだって」
「えっ、あれを聞いていたの?」
思わず問いかけると、葉子はうなずいた。
「うん……。母さま、あたしと美愛には絶対言わないようなことを圭衣に言ってた。しかも、すごく責めるような言い方で……。圭衣がどうしてあんな風に言われなきゃいけないのか、ずっと分からなかった」
私はそっと微笑んだ。
「……、あなたたちに、あの人たちを嫌いになれって言いたいんじゃないの。ただ、私はこれから、もう誰かの期待や役割に縛られずに、自分のままでいたいだけ。だから新しい道に進みたいの」
葉子はゆっくりうなずき、美愛は悲しそうな目で私を見つめていた。もう彼女は何も言わなかった。きっと、理解してくれたのだと思う。
私は静かに顔を上げて、涼介先生を見つめる。
「涼介先生、私の気持ちは変わりません」
「そうか……。じゃあ、もう一度だけ確認させて。今の日本の法律では、分籍しても親子の縁が完全に切れるわけじゃない」
「はい、それは分かっています」
少し間を置いてから、私はためらいがちに尋ねた。
「あの……、私の場合、戸籍や住民票の閲覧制限はできませんよね? 特に、DVとかストーカー被害があったわけでもないので……」
涼介先生は黙ったまま、深く考え込んでいた。
やっぱり、無理かもしれない。
暴力を受けたわけじゃない。
ただ、ずっと、ずっと愛されなかっただけ。



