「私が小さい頃から、あの人たちは自分のキャリアのことでいつも忙しかったの。日本にいる間は、おじいちゃまや看護師さん、ご近所の人たち、商店街のおばちゃんたちが、私の面倒を見てくれてた」
懐かしさと、ほんの少しの寂しさが入り混じった記憶。
「でも、あの人が流産してから、さらに状況は悪化したの。……、それは今でも変わってない」
私は、ふっと息をつく。
「あの日、大和と別れた翌日、もんじゃ屋のおばちゃんは私の顔を見ただけで『何かあったね』って気づいてくれた。でもね……、実の親は私のその変化にすら、まったく気づかなかったの」
美愛のように、あの人たちに愛されてきた妹には、届きにくい言葉だろう。
それでも私は続ける。
「美愛ちゃん。佐藤麻茉の件、覚えてる? あの時、あの人が勝手に法的手段を取るって決めたこと」
彼女の目が見開かれる。
「私には『すぐに美愛に説明するから、何も言うな』って言われた。でも実際にはあなたに、何も伝えなかったんだよね?」
美愛は、静かに大きくうなずいた。
「あのね……、あの時、被害者だった私が何も知らされないまま、全部決められてたのが嫌だった。みんな私のことを思ってしてくれたのは分かってる。だけど……、私のことなのに、誰も“私がどう思ってるか”を聞いてくれなかった。まるで、私はいてもいなくてもいい存在みたいで悲しかったの」
その言葉に、私はそっと微笑んだ。
「今回、私にも同じことがあったの。美愛ちゃんが言った通り、私のことを思っての行動だったのかもしれない。でももうすぐ30なのに、まだ自分の人生の選択すら許されないのかって……、悲しくなっちゃった」
分籍を決めた一番の理由は今回のこと。でも本当は、今まで積み重ねてきた“違和感”が、ついに爆発しただけなのだ。
「……、大学の専攻を決めたときもそうだった。理数系が苦手な私は、デザインを学びたかった。なのに、医者の家系のあの人は、それが気に入らなかったみたい。最終的には『この子には医者のブレインがない』って、渋々認めてくれたけど」
頑張っても、努力しても、あの人たちにとって“私”は、いつも不満足な存在だった。
「気づいてた? あなたたちがやってオーケーなことでも、私がやると、小言ばかり返ってくるって」
「で、でも……!」
それでも食い下がろうとする美愛の姿に、思わず苦笑する。こんな風に感情をぶつけてくるなんて、この子も少しは強くなったんだなって思えた。
「私はね、あなたたちのことが大切で、大好きだよ。それはずっと変わらない。……、それは分かってるよね?」
うなずく葉子と美愛の顔を見つめながら、私はそっと言葉を続ける。
「じゃあ例を挙げて、美愛ちゃんに分かりやすく話すね。ごめんね、葉子。あなたのことを使わせてもらう」
葉子が静かに頷く。
「去年のこと。葉子が姿を消すって言って、私と美愛ちゃんが協力したこと、覚えてる? そして葉子がいなくなったあと、私と美愛ちゃんが実家に戻って、あの人たちにことの経緯を説明したよね」
「……、うん。あの時、あの人たちは、ようちゃんのこと……、すごく心配してた」
ぽつりと、そう口にする美愛。
その言葉が出た瞬間、彼女が私の言いたかったことに、ようやく気づいたのだと分かった。
美愛が、そっと顔を上げた。その瞳には、ようやく“理解”の光が宿っていた。
懐かしさと、ほんの少しの寂しさが入り混じった記憶。
「でも、あの人が流産してから、さらに状況は悪化したの。……、それは今でも変わってない」
私は、ふっと息をつく。
「あの日、大和と別れた翌日、もんじゃ屋のおばちゃんは私の顔を見ただけで『何かあったね』って気づいてくれた。でもね……、実の親は私のその変化にすら、まったく気づかなかったの」
美愛のように、あの人たちに愛されてきた妹には、届きにくい言葉だろう。
それでも私は続ける。
「美愛ちゃん。佐藤麻茉の件、覚えてる? あの時、あの人が勝手に法的手段を取るって決めたこと」
彼女の目が見開かれる。
「私には『すぐに美愛に説明するから、何も言うな』って言われた。でも実際にはあなたに、何も伝えなかったんだよね?」
美愛は、静かに大きくうなずいた。
「あのね……、あの時、被害者だった私が何も知らされないまま、全部決められてたのが嫌だった。みんな私のことを思ってしてくれたのは分かってる。だけど……、私のことなのに、誰も“私がどう思ってるか”を聞いてくれなかった。まるで、私はいてもいなくてもいい存在みたいで悲しかったの」
その言葉に、私はそっと微笑んだ。
「今回、私にも同じことがあったの。美愛ちゃんが言った通り、私のことを思っての行動だったのかもしれない。でももうすぐ30なのに、まだ自分の人生の選択すら許されないのかって……、悲しくなっちゃった」
分籍を決めた一番の理由は今回のこと。でも本当は、今まで積み重ねてきた“違和感”が、ついに爆発しただけなのだ。
「……、大学の専攻を決めたときもそうだった。理数系が苦手な私は、デザインを学びたかった。なのに、医者の家系のあの人は、それが気に入らなかったみたい。最終的には『この子には医者のブレインがない』って、渋々認めてくれたけど」
頑張っても、努力しても、あの人たちにとって“私”は、いつも不満足な存在だった。
「気づいてた? あなたたちがやってオーケーなことでも、私がやると、小言ばかり返ってくるって」
「で、でも……!」
それでも食い下がろうとする美愛の姿に、思わず苦笑する。こんな風に感情をぶつけてくるなんて、この子も少しは強くなったんだなって思えた。
「私はね、あなたたちのことが大切で、大好きだよ。それはずっと変わらない。……、それは分かってるよね?」
うなずく葉子と美愛の顔を見つめながら、私はそっと言葉を続ける。
「じゃあ例を挙げて、美愛ちゃんに分かりやすく話すね。ごめんね、葉子。あなたのことを使わせてもらう」
葉子が静かに頷く。
「去年のこと。葉子が姿を消すって言って、私と美愛ちゃんが協力したこと、覚えてる? そして葉子がいなくなったあと、私と美愛ちゃんが実家に戻って、あの人たちにことの経緯を説明したよね」
「……、うん。あの時、あの人たちは、ようちゃんのこと……、すごく心配してた」
ぽつりと、そう口にする美愛。
その言葉が出た瞬間、彼女が私の言いたかったことに、ようやく気づいたのだと分かった。
美愛が、そっと顔を上げた。その瞳には、ようやく“理解”の光が宿っていた。



