「圭衣……、精神的にも、かなりきつそうで。見た目にもわかるくらい、痩せちゃってます。皆さんもご存じかと思いますけど、あの子、相当なシスコンなんですよ。妹たちが手にした幸せを壊したくない、自分のせいで花村家と大家族の間で、あの子たちが板挟みになるのだけは絶対に嫌だって……、そう言ってました」
紫道の声には、悔しさを噛み殺すような静けさがにじんでいた。
「だから圭衣、この機会に花村家の戸籍から分籍するつもりみたいです。家族のことを考えて、そこまで踏み込んで……、本気で悩んでるんですよ」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
こんなにも、圭衣ちゃんを追い詰めていたなんて。
沈黙を破ったのは雅だった。ようやく、大家族からの報告を語り始める。
「結論から言うと悠士兄ちゃんは伊乃国屋本社から外されて、新潟の伊乃国屋研究所に異動。その土地にある烏丸家のお寺で、修行もすることになった」
驚きと納得が入り混じった空気が、その場に流れる。
悠士兄ちゃんがここまでのことをした理由は、ただ一つ。
僕と圭衣ちゃんを復縁させるため。
あの日、僕たちが別れた夜、兄ちゃんはすでに涼介からキラリの件が解決したという報告を受けていた。そしてその夜、医療機器の件で兄ちゃんがジョセフさんに電話をかけたとき、ジョセフさんは『圭衣ちゃんにお礼を言わせたい』と言ったらしい。
ところが彼女からは、何のリアクションもなかった。
それもそのはず。圭衣ちゃんは、キラリの件について何も知らされていなかった。僕たちの間で『彼女には知らせない』と決めていたからだ。だから、彼女自身は何に対して感謝を述べればいいのかも分からず、結果として連絡をしなかった。
そのすれ違いが、ジョセフさんや久美子さんにとっては「無礼」に映ってしまったのだ。
その後、兄ちゃんは圭衣ちゃんが不動産巡りをしていると知り、復縁のチャンスがなくなると焦った。そして彼女に“見張り”をつけ、行動を監視するという暴挙に出た。
その矢先、カフェBon Bonの前を通りかかり、偶然、紫道くんと圭衣ちゃんが親しげに言葉を交わしているのを見かけた。
それが決定打だった。
圭衣ちゃんにはすでに恋人がいる、と兄ちゃんは勝手に思い込んだ。そしてその嫉妬心が、嫌がらせと脅迫へと姿を変えていった。
そんなこと、あるはずがないのに。
一方で、花村家の両親は、圭衣ちゃんがすぐに烏丸家や悠士兄ちゃんに『お礼の連絡』を入れたものと思っていた。ところが翌日、Hope Medical Japanを訪れた兄ちゃんが『何の連絡もなかった』と報告。
それを聞いたのが礼儀に厳しい、母・久美子さんだった。
「いくら別れたとはいえ、守ってくれた相手にお礼の一言もないなんて……!」
久美子さんが憤慨し、それに父親のジョセフさんも同調した。
それが、花村家の両親が圭衣ちゃんを無視し始めた、きっかけだった。
おそらく、いつかは謝罪があると思っていたのだろう。でも、圭衣ちゃんからも何も連絡がない。
そうして、完全な意地の張り合いに発展してしまった。
さらに今では、ふたりの娘、葉子と美愛が『大家族の一員』となった以上、花村家としても圭衣ちゃんとの距離を置かざるを得ないと判断したらしい。
あまりに理不尽な真実に、胸の奥がひりつくようだった。
紫道の声には、悔しさを噛み殺すような静けさがにじんでいた。
「だから圭衣、この機会に花村家の戸籍から分籍するつもりみたいです。家族のことを考えて、そこまで踏み込んで……、本気で悩んでるんですよ」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
こんなにも、圭衣ちゃんを追い詰めていたなんて。
沈黙を破ったのは雅だった。ようやく、大家族からの報告を語り始める。
「結論から言うと悠士兄ちゃんは伊乃国屋本社から外されて、新潟の伊乃国屋研究所に異動。その土地にある烏丸家のお寺で、修行もすることになった」
驚きと納得が入り混じった空気が、その場に流れる。
悠士兄ちゃんがここまでのことをした理由は、ただ一つ。
僕と圭衣ちゃんを復縁させるため。
あの日、僕たちが別れた夜、兄ちゃんはすでに涼介からキラリの件が解決したという報告を受けていた。そしてその夜、医療機器の件で兄ちゃんがジョセフさんに電話をかけたとき、ジョセフさんは『圭衣ちゃんにお礼を言わせたい』と言ったらしい。
ところが彼女からは、何のリアクションもなかった。
それもそのはず。圭衣ちゃんは、キラリの件について何も知らされていなかった。僕たちの間で『彼女には知らせない』と決めていたからだ。だから、彼女自身は何に対して感謝を述べればいいのかも分からず、結果として連絡をしなかった。
そのすれ違いが、ジョセフさんや久美子さんにとっては「無礼」に映ってしまったのだ。
その後、兄ちゃんは圭衣ちゃんが不動産巡りをしていると知り、復縁のチャンスがなくなると焦った。そして彼女に“見張り”をつけ、行動を監視するという暴挙に出た。
その矢先、カフェBon Bonの前を通りかかり、偶然、紫道くんと圭衣ちゃんが親しげに言葉を交わしているのを見かけた。
それが決定打だった。
圭衣ちゃんにはすでに恋人がいる、と兄ちゃんは勝手に思い込んだ。そしてその嫉妬心が、嫌がらせと脅迫へと姿を変えていった。
そんなこと、あるはずがないのに。
一方で、花村家の両親は、圭衣ちゃんがすぐに烏丸家や悠士兄ちゃんに『お礼の連絡』を入れたものと思っていた。ところが翌日、Hope Medical Japanを訪れた兄ちゃんが『何の連絡もなかった』と報告。
それを聞いたのが礼儀に厳しい、母・久美子さんだった。
「いくら別れたとはいえ、守ってくれた相手にお礼の一言もないなんて……!」
久美子さんが憤慨し、それに父親のジョセフさんも同調した。
それが、花村家の両親が圭衣ちゃんを無視し始めた、きっかけだった。
おそらく、いつかは謝罪があると思っていたのだろう。でも、圭衣ちゃんからも何も連絡がない。
そうして、完全な意地の張り合いに発展してしまった。
さらに今では、ふたりの娘、葉子と美愛が『大家族の一員』となった以上、花村家としても圭衣ちゃんとの距離を置かざるを得ないと判断したらしい。
あまりに理不尽な真実に、胸の奥がひりつくようだった。



