婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

一旦、不動産屋巡りはお休み。


週末は、個人的にオーダーをいただいたウィルとラーラのウェディングコスチュームに使う生地や装飾パーツを探しに、手芸店へ向かうことにした。


荷物はそれほど多くならないだろうし、今日は天気も良いので電車を利用する。

 



マンションから駅へ向かう道すがら、ふと足が止まる。


小さな公園に、ツツジの花が鮮やかに咲いていた。その奥には、一本の桜の木。


四月下旬に差しかかる今、可憐な薄いピンクの花が風に揺れている。

ツツジの赤紫と桜のピンク。そのコントラストが、青空に見事に映えていた。

 
思わずスマートフォンを取り出し、角度を変えながら何枚も写真を撮る。


……、うん、ちょっとした癒しのひととき。


自然と笑みがこぼれていた。

 
その時、画面の隅に黒のチノパンと白いポロシャツを着た私より少し若い女性の姿が、写真に写り込んでいた。


だが、特に気に留めることもなく、そのまま駅へ向かう。


目的は、手芸屋さんだ。

 
ピーターズファミリーコンベンションで販売するグッズは、できるだけ多くの人に手に取ってもらえるよう、値段を抑えている。その分、材料も百均や手頃な価格のものを選んでいるのが現状だ。


でも、今回のウェディングコスチュームは“特別注文”。


クライアントとは直接やり取りができないため、葉子が間に入って予算や素材の調整をしてくれた。その結果──


『2体分で、8万円以内に収めるってことでお願い』


……、えええっ⁉︎
出し過ぎじゃない、それ……⁉︎
8万円って、アンティークレース使えちゃうよ!?

 
とはいえ、久々に本気で可愛いものを作れるチャンス。やる気がむくむくと湧いてくる。

 



必要な生地やパーツを無事に揃えたあと、気分転換に少しだけ銀座の街を歩くことにした。


週末の銀座は、どこか華やかで穏やか。


家族連れが多く、笑い声や子どもたちのはしゃぐ声が風に乗って耳に届く。


特に買い物の予定はないが、店頭のディスプレイを眺めているだけで、インスピレーションが湧いてくる。

 
それに今日は、天気も気分も、すこぶる良い。


ショーウィンドウをひとつひとつ丁寧に見ていき、気になるディスプレイがあれば、スマートフォンで撮影してメモ代わりに保存していく。


しばらくして、ふと気づいた。

 
少し距離を置きながら、私と同じペースで動いている女性がいる。


さりげなくディスプレイの写真を撮るふりをして、スマートフォンのレンズをわずかにズラし、その女性を画角に収めた。


そのまま自然な流れで歩きながら、私はスマホの画面に視線を落とす。