学校から15分の最寄り駅までの道を、自転車を引きながら2人並んで歩いていく。未だ新緑というには少しだけ早い季節。ちょうど良い気温に心地よく風がそよいでいた。
「優と1年生の時同じクラスだったんだよね?優、どんな感じだった?」
自然な会話の糸口を探るように、千歌が恭介に尋ねる。
「望月さんはあのまんま。強引でも憎めなくて、皆んななんだかんだ言うこと聞いてたかな。クラス委員やってたけど上手く纏めてた」
「部活の時と一緒だ。今年、多分部長になると思うって自分で言ってた」
「陸部?」
「うん、陸部」
「種目って何やってるの?」
言われた質問に、千歌は優の姿を想像した。
「短距離と幅跳び。あの子全身バネみたいに軽ーく跳んじゃうの。足も速くて、見ていてかっこいいんだよ」
「あー…今、楠見さんのこと聞いたつもりだった」
千歌は一瞬言葉に詰まり、慌てて答える。
「あ、私ね!私は短距離と棒高跳び」
「棒高跳び」
「えっと、長〜い棒を持って、こうタタターッと走って棒を支点にぴょーんと飛んで、バーを超えてぼすんと落ちる、やつ」
ぎこちない身振り手振りで、棒高跳びとは何たるかを説明する千歌。それを見ていた恭介は、ふっと控えめに吹き出した。くっくっと小刻みに震えながら笑っている。
「…ごめん、それは知ってる。繰り返しただけ」
「…」
千歌は、ジェスチャーを交えながら懸命に説明をしてしまった自分が恥ずかしくなった。熱くなる顔を冷まそうと、パタパタと両手で顔を仰いでみる。
「ははっ、楠見さんって面白いね」
「そうかな」
羞恥心で俯く千歌に、恭介は優しい声音で聞く。
「うん。なんで棒高跳び?」
「走るリズムが好きで、あと飛んだって思えるのが楽しいんだよね」
「…へぇ。見てみたいかも」
「木曜日はポールやってるから、見れるよ」
「ポール?」
「ポールジャンプだから」
「なるほど。木曜日ね。覚えた」
心なしか嬉しそうな恭介の表情に、反対に恭介の部活動時間を削らせてしまったことを千歌は申し訳なく感じていた。
「…今日、椋くん部活できなくなっちゃってごめんね」
「なんで?いいよ、全然。そもそも僕が送るって言ったわけだから。楠見さんと話すの楽しいしね」
柔らかな調子で言う恭介のセリフが、いちいち胸に刺さる。ランニングしているような速さの鼓動が内側で鳴り響く。2人でいる間は、どうにも落ち着く気配はなかった。
(きっと今の言葉に、深い意味なんて無いんだ)
また間が空くが、今度は何故だか居心地が悪いわけではなかった。
目の前にある信号をひとつ渡ったら、もう直ぐに駅に着く。名残惜しいなと思いつつも、千歌は恭介に話しかける。
「この辺でいいよ、ありがとう。…椋くんはまた戻るの?」
「うん」
「ちょっと待ってて!」
そう言った千歌は小走りで自動販売機へと向かう。スマホをかざして、飲み物を買って戻ってきた。
「これ、お礼。なんとなくでコーラにしちゃったけど何が好きか聞けばよかったね」
「ありがと。好きだよ、コーラ」
「良かった。今日は本当にありがとう!練習頑張って。あと、…友達としても、よろしく」
「よろしく。楠見さん、また明日」
「また明日」
千歌は恭介の後ろ姿を見送りながら、この人の優しさは特別なものなのか、それとも誰にでもこうなのか、考え込んでしまう。でも、練習を見に来てくれるという約束を思い出し、次の木曜日にはしっかりと棒高跳びを跳べるようにしておこうと決意した。
昨日の緊張や不安が、少しずつ期待に変わっていくのを感じながら──。
「優と1年生の時同じクラスだったんだよね?優、どんな感じだった?」
自然な会話の糸口を探るように、千歌が恭介に尋ねる。
「望月さんはあのまんま。強引でも憎めなくて、皆んななんだかんだ言うこと聞いてたかな。クラス委員やってたけど上手く纏めてた」
「部活の時と一緒だ。今年、多分部長になると思うって自分で言ってた」
「陸部?」
「うん、陸部」
「種目って何やってるの?」
言われた質問に、千歌は優の姿を想像した。
「短距離と幅跳び。あの子全身バネみたいに軽ーく跳んじゃうの。足も速くて、見ていてかっこいいんだよ」
「あー…今、楠見さんのこと聞いたつもりだった」
千歌は一瞬言葉に詰まり、慌てて答える。
「あ、私ね!私は短距離と棒高跳び」
「棒高跳び」
「えっと、長〜い棒を持って、こうタタターッと走って棒を支点にぴょーんと飛んで、バーを超えてぼすんと落ちる、やつ」
ぎこちない身振り手振りで、棒高跳びとは何たるかを説明する千歌。それを見ていた恭介は、ふっと控えめに吹き出した。くっくっと小刻みに震えながら笑っている。
「…ごめん、それは知ってる。繰り返しただけ」
「…」
千歌は、ジェスチャーを交えながら懸命に説明をしてしまった自分が恥ずかしくなった。熱くなる顔を冷まそうと、パタパタと両手で顔を仰いでみる。
「ははっ、楠見さんって面白いね」
「そうかな」
羞恥心で俯く千歌に、恭介は優しい声音で聞く。
「うん。なんで棒高跳び?」
「走るリズムが好きで、あと飛んだって思えるのが楽しいんだよね」
「…へぇ。見てみたいかも」
「木曜日はポールやってるから、見れるよ」
「ポール?」
「ポールジャンプだから」
「なるほど。木曜日ね。覚えた」
心なしか嬉しそうな恭介の表情に、反対に恭介の部活動時間を削らせてしまったことを千歌は申し訳なく感じていた。
「…今日、椋くん部活できなくなっちゃってごめんね」
「なんで?いいよ、全然。そもそも僕が送るって言ったわけだから。楠見さんと話すの楽しいしね」
柔らかな調子で言う恭介のセリフが、いちいち胸に刺さる。ランニングしているような速さの鼓動が内側で鳴り響く。2人でいる間は、どうにも落ち着く気配はなかった。
(きっと今の言葉に、深い意味なんて無いんだ)
また間が空くが、今度は何故だか居心地が悪いわけではなかった。
目の前にある信号をひとつ渡ったら、もう直ぐに駅に着く。名残惜しいなと思いつつも、千歌は恭介に話しかける。
「この辺でいいよ、ありがとう。…椋くんはまた戻るの?」
「うん」
「ちょっと待ってて!」
そう言った千歌は小走りで自動販売機へと向かう。スマホをかざして、飲み物を買って戻ってきた。
「これ、お礼。なんとなくでコーラにしちゃったけど何が好きか聞けばよかったね」
「ありがと。好きだよ、コーラ」
「良かった。今日は本当にありがとう!練習頑張って。あと、…友達としても、よろしく」
「よろしく。楠見さん、また明日」
「また明日」
千歌は恭介の後ろ姿を見送りながら、この人の優しさは特別なものなのか、それとも誰にでもこうなのか、考え込んでしまう。でも、練習を見に来てくれるという約束を思い出し、次の木曜日にはしっかりと棒高跳びを跳べるようにしておこうと決意した。
昨日の緊張や不安が、少しずつ期待に変わっていくのを感じながら──。
