にたものどうし

昼休み、いつもの校舎裏のベンチで千歌は優とお弁当を広げていた。暖かな日差しが心地よい。

「優、聞いてよ」千歌は箸を置いて溜息をつく。


「クラスの人達にさ、髪型のこと褒められるのはいいんだけど、全員が全員椋くんを思い出してるの。私、話したこともないのにさ」


優はおにぎりを頬張りながら、意味ありげな笑みを浮かべた。


「あっはは、千歌はこれを機に椋くんと仲良くなるしかないんじゃない?」


彼女は空を見上げながら言う。


「今日先輩達がトラック使いたいって言ってたし、自主練の隙間かどっかで軽音部覗こうよ」
「いいよ、そんな向こうに知ってもらわなくても」


千歌は慌てて手を振る。膝に乗せていたお弁当箱が、落ちそうになる。


「イヤ。面白そうだから行くの!」


優の目が輝いた。


「それにこのまま似てるなーって言われ続けたらいつか認識されるでしょ。遅かれ早かれだヨ!」
「優って頑固だよね...」



 ***



放課後、千歌は半ば強引に軽音部の前まで連れてこられていた。練習室からは、ギター、ドラムとベースのセッション音が漏れている。


「ヤッホー椋くん、久しぶり!」


優は音が止んだ瞬間に、何の躊躇もなく部室のドアを開け、中を覗き込んだ。悪戯な笑みを浮かべている優にグッと腕を引かれたかと思うと、盾のように前に突き出される。


「望月、さん…?」
「今日はきみに紹介したい人がいてね、はい、この子、楠見千歌ちゃんです!」
「え」


椋恭介は手にしていたベースを抱えたまま、困惑した表情を浮かべている。その顔を見た千歌は、地面に穴があれば入りたい気分だった。


「あのさ、この子を見て何を思う?」


優の声が意地悪そうに響く。


「え?」

「優さん!?」千歌は小声で制止しようとする。

「むっふふふふ...」


部室の空気が一瞬凍りつく。椋は千歌をまじまじと見つめ、それから少し考え込むような仕草を見せた。


「え、何コレ...なんだろ。...かわいい、とか?」
「は」


千歌の頬が一気に熱くなる。


「正解なんだけど、展開させすぎ!違くて、髪型が同じってことだろうが!」


優の突っ込みに、部屋全体が笑いに包まれる。けれど千歌の心臓は、まだ激しく鼓動を打ち続けていた。


「......」


目を白黒させる椋と、その場の空気に耐えられなくなり、千歌は身を翻した。


「優!!もう無理っ!!」


その後、走って運動場に戻った千歌は、いつもの調子が全く出ない。当たり前だ。集中できるわけがない。短距離の自主練習で、やはり何度走っても記録は伸びない。


「調子悪いなー。楠見今日タイム悪すぎ。どったん?」


部の先輩が心配そうに声をかけてくる。千歌は走り終わった後のトラックに座り込んだまま、地面を見つめた。


「メンタル不良です…」


夕暮れの運動場に、千歌の小さな溜息が消えていった。