にたものどうし


4組の優とは別れ、6組の教室に入るとキラキラとした朝日が窓から差し込んでいた。千歌が自分の席に向かうと、後ろの席から声がかかる。


「あれ?楠見さん髪型変えた?かわいいね」


振り返ると、クラスメイトの高科美鈴(たかしな みすず)が、机に肘をついて千歌の髪をじっと見つめていた。美鈴は美術部で、休み時間になるとよくスケッチブックに何かを描いている。


「おはよう。まだ慣れないけどね、ありがとう」
「今までは無難な女子高生って感じだったけど、スポーティーでいいね。部活なんかやってるんだっけ?」


美鈴の澄んだ瞳に見つめられ、千歌は少しはにかんで答えた。


「やってるよ。陸上」
「運動できるのかっこいいなぁ。私なんか地味に美術部だよ。羨ましー」


美鈴が言う「地味」という言葉に、千歌は首を傾げた。休み時間に見える美鈴のスケッチブックは、いつも素敵な絵で溢れているのに。


「高科さんみたいに絵とかできる方が、私的にはかっこいいけどね」


「...そう言われると照れるね」美鈴は頬を染めながら、ふと思い出したように付け加えた。


「そういえば他クラスの男子に似た髪型の人いるよね。背も高くて目立つ、......えーっと名前が...」
「椋くん?」


口をついて出た名前は朝のやりとりでよく覚えていた。


「あ、そうそう!知ってるの?」
「朝、友達におんなじこと言われてさ...。そんなに目立つ人なのに知らずに真似しちゃってごめんって感じ」


苦笑いを浮かべたその時、教室の扉が勢いよく開いた。


「おぉ?!何、楠見さん髪切ってかわいーじゃん!」


6組のムードメーカー的存在である三波北斗(みなみ ほくと)が、その友達の小笠原奏多(おがさわら かなた)を連れて入ってきた。三波の声は、いつもの朝の教室の空気を一変させる。


「あはは、軽いなー。三波くん、小笠原くんおはよう」
「はよーっす。高科さんも」


「おはよう」美鈴が静かに挨拶を返す。


「はよー。ほんとスポーツ女子いいわぁ。オガもそう思わん?」


三波が小笠原の肩を軽く叩く。
女子からの人気が高い小笠原は、少し面倒くさそうな表情を浮かべながらも答える。


「...北斗、お前が言うとなんかチャラい。いいと思うよ。俺は少しムックを思い出すけどね」
「恭介ね!確かに、どっかで見覚えがと思ったらそう言うことか」


近づいてきた美鈴が千歌に囁いた。


「みんな同じこと思ってるんだね」
「はは、...なんか悪いことしたかな」
「そんな気にすることないよ」


朝のホームルームが始まろうとしている教室で、千歌は窓の外を見つめた。椋恭介。たった今朝、初めて存在を認識したばかりの人なのに、その名前が心に深く刻まれていくような気がした。

窓から見える校庭の桜の木が、春の風を教室まで仰いでいるみたいだった。