「はあ…僕の人生はつまらなかったな…」
僕は屋上にひとりでいた。
つぶやいてから、妙におかしくて笑ってしまった。
屋上のフェンスから降りようとするとーーーー。
ガチャッと屋上のドアが開く音がして、僕は思わずフェンスから離れた。
誰かと見ると、同じクラスの櫻井さんだった。
櫻井さんは僕のとなりに来ると、こちらを見てニヤッとした。
「今、飛びおりようとしたでしょ?」
僕は素直に「うん。」と言った。
櫻井さんが僕の方から空に目を移す。「やめときなよ。」
「え?」
「やめなさい。」
僕はむっとして言った。
「櫻井さんに僕の気持ちなんか分からないよ。」
櫻井さんのしっかりした声が聞こえた。
「分からないよ。ただね、君はまだ中学生なんだよ。」
僕はたじろいだ。
「それが何?」
櫻井さんが呆れたように言う。
「何って、人生はじまったばっかじゃん。」
それから僕の方を見て
「これからって時期じゃん。もったいないよね?」
と聞いてきた。
「別に。」
櫻井さんの方を見ないで答えた。
空は晴天で、すこし冷たい風がふいていた。
「ふうん?でもさ、死んじゃったらもうそれきりだよ。いいの?」
「いいんだよ。」
「変なの。よく分からないや。」
僕は今すぐにでも飛びおりたかった。けど、人前でやるのには気が引けて、なぜかあまり会話したこともない櫻井さんととなりに並んでしゃべっていた。
「分からないよ、櫻井さんには。」
僕がぶつくさ言うと、櫻井さんの笑い声が聞こえた。
「何で笑ってるの?僕は本気でーー…」
「わたし、余命1週間なんだよね。」
櫻井さんが今日の夕飯カレーなんだよね、みたいなノリで言った。
「へー、そうなんだあ…」
僕もその雰囲気につられて、サラリと答えた。が、すぐに
「ってえ!!?」
と驚いた。
櫻井さんのクスクス笑う声が聞こてくる。
「あはは。そんなに驚く?」
「そりゃ、驚くよ!」
櫻井さんがこちらを向いた。
「わたしは、思い病気なんだ。でもね、君は元気でしょ?これからどうにだってなる。」
櫻井さんの言葉に、僕は何も言えなかった。
クスクス笑う声が再び聞こえてくる。
「聞かせてよ。君がなぜ飛びおりたいか。」
突然の言葉に、僕は驚いた。
「え?何で…」
櫻井さんの顔がいたずらっぽくなる。
「えー、好奇心?」
「はあ…」
「学生、好奇心あってなんぼだからね。」
櫻井さんの一言に、なぜか僕は申し訳なさを感じた。自分は好奇心とはほど遠い気がする。
「さ、教えてよ。君が飛びおりるわけ。」
顔を輝かせる櫻井さんに、僕は苦笑した。
「そんな楽しい話じゃないよ。」
「だろうね。でも人の気持ち知れるのって、楽しくない?」
僕は首を横に振った。
「君こそ変じゃない?」
櫻井さんの笑い声まじりの声が聞こえた。
「はあ?ひっどーい。」
僕はすうっと空気を吸うと、櫻井さんの方を見ないで話しはじめた。
「僕のお母さんは僕を産んだ時に亡くなっていて、いないんだ。だから代わりにいとこのお母さんに育ててもらった。」
ここで一旦区切ると、また話しはじめた。
「だけど、やっぱり血がつながっていないというのは、残酷なものだったんだ。お母さんはいとこの方をかわいがるし、僕に対しては厳しいんだ。おまけに、お父さんからも嫌われている。学校にも居場所はないし、生きていたって邪魔だと思ったんだ。」
言いおわり、僕は櫻井さんの方を見てみた。
櫻井さんはむずかしい顔をしていた。
「そっか…」
とだけしか言わなかった。何か考えているようだった。
しばらく沈黙がつづき、僕は何だか気まずかった。
早くこの場からいなくなりたい…と思ったが、どうすることもできなかった。
櫻井さんの方を見てみたが、櫻井さんは遠い景色を眺めていた。
僕も櫻井さんと同じようにした。
ちょっとして、救いのチャイムが鳴った。
これは場を去るいいチャンスだと思い、櫻井さんに声をかけた。
「チャイム鳴ったから、行くね。」
櫻井さんは動かず黙ったままだった。
僕はそろーっと歩いて屋上を出ようとした。
もうすぐドアというところで、背後から足音がした。
思わず僕は立ちどまり、うしろを見た。
息を切らした櫻井さんが、何かを渡してきた。
「これ…あとで見て。じゃ!」
そう言うと、勢いよくドアを開け、いなくなってしまった。
1人屋上に残された僕は、ただ立っていた。
ちょっとしてから、僕はようやく動きだした。
櫻井さんが閉めたドアを開き、学校の中へ入る。
階段を降りて、廊下を進んで教室に戻った。
教室にはちらほら生徒がいて、櫻井さんの席を見ると、櫻井さんが座っていた。
僕は席に着くと、櫻井さんからもらったノートを開いた。
そこには、わたしの家に来ない?と書かれていた。それだけだった。
僕は意味が分からなくて、櫻井さんに聞きにいこうとした。
けどすぐに先生が来たので、諦めた。
帰りのホームルームがおわり、帰る支度をした。
急いで櫻井さんの席に行き、櫻井さんを捕まえた。
廊下の端っこで、僕は櫻井さんにノートを指しだした。文字が書いてあったページを。
「これ、どういうこと?」
僕が聞くと、櫻井さんはあっさり
「そのままの意味だよ。」
と答えた。
僕はもどかしい気持ちになった。
「そのままでも分からなくて。」
櫻井さんが目を見開いた。
「え?だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだよ!」
つい大きい声で言ってしまった。
櫻井さんがクスクス笑った。
「だって君、つまり家がイヤなんでしょ?だったら、逃げればいいんじゃないかと思って。」
僕は驚いた。
「え?何で家がイヤって知って…」
呆れたように櫻井さんが言う。
「分かるよ、普通。だって、お母さんがイヤなんでしょ。だったら、家もイヤってことでしょ。」
「ま、まあね。つまり、これから櫻井さんの家に行けばいいってこと?」
櫻井さんが頷いた。
「そう。」
急に僕の腕が引っ張られた。
「な、なに!?」
「さ、行くよ、わたしの家へ!」
櫻井さんはそう言い、僕をズルズル引っ張った。
「自分で歩くから!引っ張らないで!」
僕が叫ぶと、櫻井さんが腕を離した。その拍子に僕は床に転び、痛い思いをした。
「ちょっと大切に扱ってよ!」
怒って僕が言うと、櫻井さんはおもしろがるように笑っていた。
僕は何とか立ちあがり、ズボンをパンパンとした。
「じゃ、レッツゴー!」
どんどん進む櫻井さんをフラフラしながらも、何とか追った。
僕は屋上にひとりでいた。
つぶやいてから、妙におかしくて笑ってしまった。
屋上のフェンスから降りようとするとーーーー。
ガチャッと屋上のドアが開く音がして、僕は思わずフェンスから離れた。
誰かと見ると、同じクラスの櫻井さんだった。
櫻井さんは僕のとなりに来ると、こちらを見てニヤッとした。
「今、飛びおりようとしたでしょ?」
僕は素直に「うん。」と言った。
櫻井さんが僕の方から空に目を移す。「やめときなよ。」
「え?」
「やめなさい。」
僕はむっとして言った。
「櫻井さんに僕の気持ちなんか分からないよ。」
櫻井さんのしっかりした声が聞こえた。
「分からないよ。ただね、君はまだ中学生なんだよ。」
僕はたじろいだ。
「それが何?」
櫻井さんが呆れたように言う。
「何って、人生はじまったばっかじゃん。」
それから僕の方を見て
「これからって時期じゃん。もったいないよね?」
と聞いてきた。
「別に。」
櫻井さんの方を見ないで答えた。
空は晴天で、すこし冷たい風がふいていた。
「ふうん?でもさ、死んじゃったらもうそれきりだよ。いいの?」
「いいんだよ。」
「変なの。よく分からないや。」
僕は今すぐにでも飛びおりたかった。けど、人前でやるのには気が引けて、なぜかあまり会話したこともない櫻井さんととなりに並んでしゃべっていた。
「分からないよ、櫻井さんには。」
僕がぶつくさ言うと、櫻井さんの笑い声が聞こえた。
「何で笑ってるの?僕は本気でーー…」
「わたし、余命1週間なんだよね。」
櫻井さんが今日の夕飯カレーなんだよね、みたいなノリで言った。
「へー、そうなんだあ…」
僕もその雰囲気につられて、サラリと答えた。が、すぐに
「ってえ!!?」
と驚いた。
櫻井さんのクスクス笑う声が聞こてくる。
「あはは。そんなに驚く?」
「そりゃ、驚くよ!」
櫻井さんがこちらを向いた。
「わたしは、思い病気なんだ。でもね、君は元気でしょ?これからどうにだってなる。」
櫻井さんの言葉に、僕は何も言えなかった。
クスクス笑う声が再び聞こえてくる。
「聞かせてよ。君がなぜ飛びおりたいか。」
突然の言葉に、僕は驚いた。
「え?何で…」
櫻井さんの顔がいたずらっぽくなる。
「えー、好奇心?」
「はあ…」
「学生、好奇心あってなんぼだからね。」
櫻井さんの一言に、なぜか僕は申し訳なさを感じた。自分は好奇心とはほど遠い気がする。
「さ、教えてよ。君が飛びおりるわけ。」
顔を輝かせる櫻井さんに、僕は苦笑した。
「そんな楽しい話じゃないよ。」
「だろうね。でも人の気持ち知れるのって、楽しくない?」
僕は首を横に振った。
「君こそ変じゃない?」
櫻井さんの笑い声まじりの声が聞こえた。
「はあ?ひっどーい。」
僕はすうっと空気を吸うと、櫻井さんの方を見ないで話しはじめた。
「僕のお母さんは僕を産んだ時に亡くなっていて、いないんだ。だから代わりにいとこのお母さんに育ててもらった。」
ここで一旦区切ると、また話しはじめた。
「だけど、やっぱり血がつながっていないというのは、残酷なものだったんだ。お母さんはいとこの方をかわいがるし、僕に対しては厳しいんだ。おまけに、お父さんからも嫌われている。学校にも居場所はないし、生きていたって邪魔だと思ったんだ。」
言いおわり、僕は櫻井さんの方を見てみた。
櫻井さんはむずかしい顔をしていた。
「そっか…」
とだけしか言わなかった。何か考えているようだった。
しばらく沈黙がつづき、僕は何だか気まずかった。
早くこの場からいなくなりたい…と思ったが、どうすることもできなかった。
櫻井さんの方を見てみたが、櫻井さんは遠い景色を眺めていた。
僕も櫻井さんと同じようにした。
ちょっとして、救いのチャイムが鳴った。
これは場を去るいいチャンスだと思い、櫻井さんに声をかけた。
「チャイム鳴ったから、行くね。」
櫻井さんは動かず黙ったままだった。
僕はそろーっと歩いて屋上を出ようとした。
もうすぐドアというところで、背後から足音がした。
思わず僕は立ちどまり、うしろを見た。
息を切らした櫻井さんが、何かを渡してきた。
「これ…あとで見て。じゃ!」
そう言うと、勢いよくドアを開け、いなくなってしまった。
1人屋上に残された僕は、ただ立っていた。
ちょっとしてから、僕はようやく動きだした。
櫻井さんが閉めたドアを開き、学校の中へ入る。
階段を降りて、廊下を進んで教室に戻った。
教室にはちらほら生徒がいて、櫻井さんの席を見ると、櫻井さんが座っていた。
僕は席に着くと、櫻井さんからもらったノートを開いた。
そこには、わたしの家に来ない?と書かれていた。それだけだった。
僕は意味が分からなくて、櫻井さんに聞きにいこうとした。
けどすぐに先生が来たので、諦めた。
帰りのホームルームがおわり、帰る支度をした。
急いで櫻井さんの席に行き、櫻井さんを捕まえた。
廊下の端っこで、僕は櫻井さんにノートを指しだした。文字が書いてあったページを。
「これ、どういうこと?」
僕が聞くと、櫻井さんはあっさり
「そのままの意味だよ。」
と答えた。
僕はもどかしい気持ちになった。
「そのままでも分からなくて。」
櫻井さんが目を見開いた。
「え?だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだよ!」
つい大きい声で言ってしまった。
櫻井さんがクスクス笑った。
「だって君、つまり家がイヤなんでしょ?だったら、逃げればいいんじゃないかと思って。」
僕は驚いた。
「え?何で家がイヤって知って…」
呆れたように櫻井さんが言う。
「分かるよ、普通。だって、お母さんがイヤなんでしょ。だったら、家もイヤってことでしょ。」
「ま、まあね。つまり、これから櫻井さんの家に行けばいいってこと?」
櫻井さんが頷いた。
「そう。」
急に僕の腕が引っ張られた。
「な、なに!?」
「さ、行くよ、わたしの家へ!」
櫻井さんはそう言い、僕をズルズル引っ張った。
「自分で歩くから!引っ張らないで!」
僕が叫ぶと、櫻井さんが腕を離した。その拍子に僕は床に転び、痛い思いをした。
「ちょっと大切に扱ってよ!」
怒って僕が言うと、櫻井さんはおもしろがるように笑っていた。
僕は何とか立ちあがり、ズボンをパンパンとした。
「じゃ、レッツゴー!」
どんどん進む櫻井さんをフラフラしながらも、何とか追った。



