「うーん……、ママが言ってたもの、どこにあるんだ……? この辺にあると思ったけど、いくらかき分けても見つからないぞ……」
い、いた……!
二十メートルくらい上昇した先、砂嵐が晴れて見通しが良くなったところで、男の子を発見した。なんか、タブレット? 的なものを抱えて首をかしげながら、ブツブツ何か言っている。
そして、ときどき商店街のほうに向けて、例の赤い光線を飛ばすんだ。光線が当たった場所は、ガラガラと崩れて砂煙が立ち上る。砂嵐の正体はこれだったのか!
「ちょっとちょっと!」
なんかいろいろとやりようがあった気がしたけれど、そのまんま話しかけちゃった。
こちらに気づいた男の子の顔が、空でサメでも見たかのような顔になった。
「な、なんなんだよ! オイラの行くとこ行くとこ現れて! お前ら暇なのか!?」
「暇じゃないよ。せっかくの休日を謳歌してたのに、変なことに巻き込んで」
「お前ら魔法界のやつなんだろ!?」
「え?」
「この前のときも、魔力を持っているやつしか感知できないようになっていたオイラの秘密基地に、やすやすと乗り込んできて、かと思ったら急にミス・ウィッチになんてなりやがって!
あんな強大な魔力、科学界のやつが持っている訳がねぇ!」
……。
「いや、私たち、ごく普通の人間、なんだけど……」
隣でマリエもこくっとうなずく。
「なわけねぇだろ! ミス・ウィッチは強大な魔力を持つ、特別な魔法使いなんだってみんなが言ってたんだ」
みんな?
「そしてミス・ウィッチは、オイラたちの最大の敵。お前らは今度こそ、ここでオイラが倒す!」
……来る!
男の子はこの前と同じように、私たちに向けてまっすぐ赤い光線を放った。
私とマリエは空中で身をかわす。よけた光線はそのまま空の彼方へ。
「危ないな! 何でこんなことするの!?」
「お前らミス・ウィッチはオイラたちの邪魔になるからだ! ……って、みんなが言ってた!」
だからみんなって誰だし!?
「でもそれなら、商店街まで攻撃する必要、ありませんよね? あなたの様子からして、私たちがここにいるということは知らなかったようですし」
「それはオイラがここで探し物をしていたからで……、……って、お前らには関係ねぇ!」
「いいえ」
ぴしゃりと言い放つマリエ。
「関係なくありません。あなたの行動は、多くの人を危険にさらしている。
あなたが言う私たち、“ミス・ウィッチ”が特別な魔法使いなのだとしたら、こういった身勝手な脅威から人々を守るために、存在するのだと思います」
きれいな緑色の瞳が、まっすぐ男の子を見据えている。……マリエ、かっこいい。そしてちょっと怖い。
「あなたは、私たちが追い払います」
「……そうだそうだ! 二度とこんなことができないように、今度は宇宙のかなたまで吹っ飛ばすよ!」
あんまりかっこよくない私の宣言に、マリエはにこっと笑ってくれた。
「……ハッ! できるものならやってみろ! 今日のオイラはこの前とは違う! 特訓を重ねたスペシャルなオイラだ! とことん相手してやる!」
男の子はまた、しっちゃかめっちゃかに光線を飛ばしてきた。
間をすり抜けるようにしてよける私たち。なんか慣れてきた。気分はまるで、レーザートラップをくぐりぬけるスパイだ。
「なにっ!? ぜ、全然当たらない……。こ、これならどうだ!」
光線の速度がさらに速くなった。
でも正直、まだ全然余裕。むしろゲームみたいでちょっと楽しくなってきた! 余裕の表情を浮かべる私たちに対して、男の子の顔にはどんどん疲れが現れてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
光線が一瞬やんだ。どうやら体力の限界みたい。
私とマリエは、同時に杖を構える。
今回はふたりで一緒に、杖をまっすぐ男の子のほうに向けた。
ピンクと緑の光が、渦を巻いて混ざり合いながら、どんどん大きくなる。
男の子はまだ空中で息を整えている最中だ。
というわけで、そのままエネルギーを発射!
「あわわわわ……」
やっと盾だけは構えた男の子。
「……いや、負けてたまるか。オイラも活躍して、みんなの力にならなきゃ……」
前回よりはかなり踏ん張っているって感じ。でもあいにく、こちらも前回と違ってふたりがかりなんだよね。
杖を握る手、そしてマリエとつないでいる手に力を込めた。マリエからの力も伝わってくる。
エネルギーがさらに大きくなった!
「……くぅぅっ」
あともう少し!
「せーの、それっ!!」
マリエと一緒に、杖をぐっと前に押し出した。
「……もうダメ、だあああああああああぁぁぁぁぁぁ……」
またまた男の子は、きれいに吹っ飛ばされて、どんどん遠のいていって、やがて見えなくなった。
「言うほど大したことなかったなー……」
私が言うと、
「ええ、難なく追い払えて良かったです」
マリエも賛同した。
「……彼、前回は私たちのみを標的にしていましたが、目的によっては平気で周りの人を巻き込むようですね」
ひんやりとしたマリエの声。
「気になるのはその目的……」
「なんか、探し物しているっぽかったよね?」
「ええ。きっと、この一帯の破壊行動に出ていたのは、探し物のためだったのでしょう。そして、たびたび仲間の存在を仄めかしていました。そのうち、お仲間の方も姿を現すかもしれませんね」
「うん。そのときはまた、今日みたいに頑張ろう、人助け! 私たち、今のところ“最強魔女”って感じだしさ」
「はい。頑張りましょう、一緒に」
そういうマリエは、凛々しくて優しい笑顔だった。
今日はなんか、人の役に立ったなぁって感じがして、すごく気分が良い。
下の方は砂嵐で視界が良くないから、上空の私たちのことは見えていないはず。
みんなが知らないところで密かに平和を守るなんて、これこそ変身ヒロインぽくない?
「それでは、この前のように後片付けをしてから、さらと凛がいる広場に戻りましょうか」
「そうだね。魔法でパパっと済ませちゃおう!」
はい、楽ちん片付けであっという間に元通り! こんなにボロボロにされちゃ、商店街の人困っちゃうもんね。あとは、私たちがいた痕跡を消すっていう意味もある。
“立つ鳥跡を濁さず”ってヤツですよ、よく知らないけど!
「こんなところでしょうか」
「うん。それじゃ、さらや凛をこれ以上心配させるわけにもいかないし、変身をといて広場に戻ろ――」
「動くな」
背後から声がしたのは、そのときだった。
ゆっくりふりかえる私とマリエ。
そこにいたのは、二人の女の子。
オレンジ色の髪でお団子結びの方の子が、まっすぐに杖を構えながら、こちらをすごい目でにらんでいる。杖の先端の球体の中でときどきバチッと電気のようなものがとんでいる。
隣の青い髪を長いポニーテールにしている子は、こちらを見ているけれど無表情。それが逆に、首筋が凍りつくように怖かった。おろしている杖の先には、大きな透明な飾りがついている。
えっと……、……誰?
あらためて、二人の服装に注目してみて気が付く。
私とマリエと、ほぼほぼ似たような服装。頭の小さなとんがり帽子。そして、杖……。
間違いない、この人たち、“ミス・ウィッチ”だ。
……え、じゃあ仲間じゃん! なんでこんなに挑戦的なんだろう……?
「あ、あの」
次の瞬間、強烈な光とともに、首元のすぐ横を何かが通り過ぎたような感触が!
見ると、お団子の子の杖が、さっきよりバチバチ言っているような気がする。まさか、今通り過ぎたのって、あの電気……。
私とマリエは、緊張で顔を引きつらせながら、蛇に睨まれた蛙のような気持ちで、ただただ呆然とするしかなかった――。
to be continued…

