さて、翌日になりました。


「おはよう!」
「おはようございます」

 私たちは、先に寮の玄関についていたさらと凛にあいさつ。

「おはよー」
「おはよう。響ちゃんも真理英ちゃんも、私服可愛いね」
「えっ! ありがとう、嬉しい!」
「ありがとうございます。凛のワンピースもとても素敵です」

 ふんわりとした白いワンピースは、凛の性格そのものって感じがする。

「さらもかっこいいね」
 私は普段、雑誌とか何も読んでいないんだけれど、このさらの格好はなんとなく今流行っているやつだなってわかった。いわゆる韓国系ってやつ。

「ありがと。うちはあんまりおしゃれに興味はないんだけど、見かねた姉キが自分のおさがりを大量にうちに持たせて……。これはそのうちのひとつなんだ」
「そうなんだ。似合ってると思うけどな」
「なんか照れる」

 照れ隠しのように、さらがスマホでマップを開いた。

「今日行こうと思っているのはここ。“アリア・ストリート”っていう名前の商店街。昨日も言った通り隣駅にあるから、そんなに遠くはないよ」
 ついでに写真も見せてくれた。どのお店も、外観からものすごく素敵。
「それじゃ、そろそろ出ようか」

 フロントで外出許可証をもらってから、私達四人は学園を出る。


「わー! すごい!」
 目的の場所、アリア・ストリートに到着。
 ズラーっと並ぶお店は、写真で見たよりもさらに可愛い。全体的に洋風な空気が漂っている。可愛い洋服が並ぶショーウィンドウ、絶対可愛い雑貨屋、おいしそうなスイーツ……。
 まるで天国!
 私たちはとりあえず、端から順にお店を見てまわることにした。

「凛、見て! これ良くない? 凛好きそう」
 さらが凛に、可愛らしい感じのシュシュを見せている。
「いいね! こういう感じすごく好きだよ」
 凛が楽しそうに言う。
 すごいな、さら。凛のことよくわかってるって感じ。

「……あ、これは!? 凛にめっちゃ合うと思う!」
 そういってさらが持ってきたのは、……えと、手のひらサイズの、ゴリラのキーホルダー。しかも結構リアルで、シュール……。
 ……凛に、合うのか?

「いい! すんごくいい!!」

 凛が食いついた!!
強面(こわもて)の内側に優しさが詰まっている、この感じがたまらないっ……! これ買うね。ありがとう、さらちゃん!」
 ……すごいな、さら。凛のことよくわかってるって感じ……。

「響、これどうでしょう?」
 真理英が見せてくれたのは、ト音記号のイヤリング。
「えっ、可愛い! めっちゃ好み! でも私、イヤリングとかつけたことないし……」
「では、これを機にイヤリングデビュー、してみませんか? アクセサリーを足すだけで、ぐっと大人っぽい印象になりますよ。ここのお店、値段がとても良心的なので、私もひとつ買おうと思って」

 真理英は、もうひとつ花の形のイヤリングを見せてくれた。

「それも可愛い! 真理英に似合いそう。……うん、私もイヤリング、挑戦してみようかな」
 私は真理英からト音記号のイヤリングを受け取り、かごの中に入れた。
「ありがとう!」
「いえいえ、気に入ってもらえて良かったです」

 そのあとも、洋服屋、本屋、スイーツのお店など、たくさんのお店を見てまわった。
 特に良かったのが、クレープ! 生地がもちもちしていて、クリームはたっぷりだけど甘すぎなくて食べやすい。めちゃくちゃ幸せな気分~!


 時刻は午後一時三十分。
 いろいろなものに夢中になっていた私たちは、ここで遅めのお昼ご飯を食べることにした。
 選んだのはおしゃれなカフェ。サンドイッチと紅茶が有名なお店らしい。
 私が頼んだのはハムサンド。今までコンビニのものしか食べたことなかったけれど、食べてみたら感動した。コンビニもおいしいけど、あったかいサンドイッチって良いね!
 紅茶は真理英におすすめされて、アールグレイを注文。真理英はこういうことにも詳しいらしい。ちなみに、アールグレイって茶葉の名前じゃないんだよ。知ってた? (私? 言わずもがな知らなかったです)

「いやー、落ち着くねぇ」
 さらがティーカップを片手につぶやく。さらには私と近いものを感じていたのに、結構様になっていてなんかちょっと悔しい。

「実際学園に来るまでは、親元を離れて生活することとか、友達のこととか、中学のこととかいろいろと心配で。こんなに早く新しい友達ができて、のんびりお茶できるなんて思わなかった」
「そうだよねー。ルームメイトのさらちゃんだけじゃなくて、お隣の響ちゃん、真理英ちゃんとも仲良くなれて。これからの学校生活がすごく楽しみ」

 凛もそういって、サンドイッチをほおばる。

「こちらこそ、誘ってもらえて嬉しかったです。これからも、学校でも、休みのときも、よろしくお願いします。また遊びに行きましょう」
「うんうん! はー、これからの学校生活、安泰(あんたい)だな~」


 私が言った途端、ガラガラガッシャン! という、とても安泰とは思えない、けたたましい音がした。それと同時に地響き。
 私たち四人は、思わず頭を抱えて、テーブルに伏せる。

「……何、今の?」

 揺れが収まってから、凛がおそるおそる言う。
 周りのお客さんたちも、何事かといった様子で戸惑っている。
 そんなときに、ガラガラガラッと、再び崩壊音と地響きが!
 店がミシミシと音を立てている。

「みなさん! 落ち着いて店の外に避難してください!」

 店員さんの誘導で、私たちは外に出た。
 外を見ると、辺りが一面砂嵐みたいになっていた。前がよく見えない。
 ズドン!
 ふいに辺りがビカッと光る。
「なんだ? 雷か?」

 誰かがそうつぶやいた直後、ドア横にあった小さな店の看板が落下!

「うおっ、あぶね!」
 さらが小さく叫びをあげる。幸い看板は誰にも当たらなかったみたい。
 私たちは、周りに細心の注意を払いながら、災害のときの避難場所になっている広場に向かう。
 しかし、その途中で、私と真理英はこっそりわき道にそれた。

「……あれ、響? 真理英? どこだ!?」
「さっきまで一緒だったのに……、ちょっと戻……わ!?」
「ダメだ凛、逆行しようとするとケガするぞ! 二人ならきっと大丈夫、今は避難が最優先だ! 広場についてから探すことにしよう!」
「う、うん……」

 ごめん、さら、凛。すぐ行くから広場で待ってて。
 私たちがわき道にそれた理由は、そう。
 さっき光ったときの光の色が、《《見覚えのある赤色》》だったから。


 どこ? どこにいる?
 真理英と初めて出会ったときに出くわした、ショッピングモールにいた怪しい男の子。私たちが、謎の変身を遂げて吹っ飛ばした彼が、ここにいるはずなんだ。
 前回は周りの人は気づいていない様子だったけど、今回は多くの人が危険にさらされている。早く見つけないと、また雷みたいな赤い光線で……。
 ん? 雷? ってことは、光線は上から降ってきた……?

「真理英! 上だ! 変身して上の方へ行こう!」
「了解しました!」

 私と真理英は、それぞれ音楽プレーヤーと懐中時計を、ぎゅっと握りしめた――。


 体中を風が駆けめぐる感覚、体温が上昇していく――。

 
 そっと目をあけると、私たちはこの前と同じように、謎の魔法使いの姿になっていた。今更ながら、私たち本当に変身できるようになっちゃったんだ……。

「行きましょう、ヒビキ!」
「……うん!」

 留め金を外すと、ケープマントが風になびく。
 私とマリエは手をつなぎ、砂嵐をかき分けるようにして上昇していった。