入学式当日。
「ひゃぁ〜! 間に合わない!」
朝からドタバタしているのは、真理英……じゃなくてもちろん私。
「落ち着いてください! まだ少し時間あります! 少しですけど!」
真理英の、フォローになっているのかわからないフォロー。
断じて寝坊したわけではありません。余裕を持って起きたことに安心して、のんびりしていたら時間がなくなったパターンです。まあ、遅刻しそうなことには変わりないけど!
「まじでごめん真理英〜! もう少し、もう少しだから!」
「はい、大丈夫です!」
せっかく憧れの制服を着ているのに、なんか“制服に着させられてる”って感じだよ。実際ちょっとサイズ大きいし。
よし、荷物はそろった、布団もたたんだ、窓の鍵も閉めた、身なり……、あとこれだ!
ハイサイドポニーテールにいつものように、真っ白なリボンを結ぶ。
よし、完璧!
「大変お待たせしました! 行こう!」
「はい!」
廊下が狭くて走ると危ないから、早歩きで校舎へ。
(曲がり角の出会いなどというものは、ここには存在しないのだよ)
そして無事に、入学式が終わりました。
唐突でごめんね。シンフォニア学園に入学することはすごく楽しみだったんだけど、入学式自体は思ったよりさらっと終わっちゃって、話せることが特にないんだよね。でも、学校生活はとても楽しめそう!
一学年はA組とB組の二クラスあって、私は一年B組だった。出席番号は二番。
びっくりしたんだけど、シンフォニア学園は、名前順があいうえお順じゃなくて、アルファベット順なんだ。だから、小学校六年間、不動の出席番号一番だった相崎響も、生まれて初めて二番になりました。この差は大きいよ。
ルームメイトだっていうこともあって、真理英とは同じクラス。
担任の先生は佐山先生っていって、優しそうな若い先生。社会科の先生なんだって。噂にはきいていたけど、中学って教科ごとに先生が変わるって本当なんだね。
クラスは全部で三十人。初日だから頑張って、周りの子に話しかけてみた。みんな優しくて、仲良くやっていけそう。
まさに、順風満帆!
「ちょっといい? お二人さん」
入学式後の自己紹介とかプリント配布とか諸々が終わった後、私と真理英に話しかけたのは、同じクラスの間宮さらと木下凛。
さらと凛はルームメイトで、部屋は私たちの隣の301号室。だから寮でもよく見かけて、仲良くなったんだ。
「明日の土曜日、空いてない?
隣の駅の近くに商店街があって、可愛い雑貨屋さんとかがいっぱいあるらしいんだ。
凛と行こうと思ってるんだけど、良かったら二人も一緒にどう?」
ショートカットが印象的で、ハキハキした物言いをするさら。
「おいしいクレープ屋さんもあるらしいよ。私、友達と一緒にクレープ食べてみたかったんだよね」
対して見た目も話し方もふわっとしている凛。
違うタイプの二人だけど、驚くほど仲が良い。
「うん! 行きたい! 真理英も空いてる?」
「はい。ぜひ行きたいです」
「よっしゃ、決まり! じゃあ明日、九時に寮の玄関前集合ね!」
「うん、了解!」
おお、楽しみ!
寮の部屋に戻ってから、私はクローゼットの前で腕を組んでいる。
せっかくのお出かけ。私の中で一番納得できる格好で行きたい。
うーん、このTシャツ、いや、こっちのパーカー? でもちょっと子どもっぽいかな。というか、私の服、全体的に子どもっぽいんじゃ……?
……そもそも私の趣味自体が、中学生になるにしては子どもっぽい? クラスのみんな、なんかみんな大人っぽく見えたなぁ。ふむ……。
「ねえ真理英」
「なんですか?」
机の上に山積みになった本を整理している真理英に、話しかける。
ちなみにこれらの本は、今日新入生に解禁された図書館に行って、借りてきたものらしい。行動が早い。
「真理英の持ち物って、なんかみんなおしゃれだよね。外国のおしゃれな雑貨屋さんとかにおいてありそう」
「そうですか? ありがとうございます。
こういうアンティークな雰囲気のものが好きなんです。魔法ものという本の好みとも、一致するところがありますね」
「なんか大人っぽくていいなー。私の持ち物なんて、前に見ていたアニメのキャラものばかりで子どもっぽいっていうか……」
「いえ、そんなことありません」
結構真面目な調子で返事が返ってきた。
「自分が好きなものは堂々と誇っていいし、誇れる環境であるべきだと思います。
それに、キャラものだってなめてはいけません。どの世代向けにその作品があろうと、素晴らしい作品は素晴らしいです。私も、対象年齢に合致しなくなっても追い続けているアニメシリーズなど、ごまんとありますから。現にそれ」
私の机の上の、小さなマスコットのキーホルダーを指さす真理英。
「それ、私たちが小学一年生のときにやっていた、変身ヒロインアニメのマスコットキャラクターですよね」
「えっ、そうそう! 私そのアニメ、すっごく好きだったから。そのキャラも可愛くて、今でも大事に取っておいてあるんだけど」
「私も大好きです。今もなおシリーズは続いていて、私ずっとチェックし続けてるんです」
「へー! えー、懐かしい! しばらく触れてなかったけど、また見てみようかな」
「ええ、ぜひ」
そっか。別に無理して好みを変える必要はないよね。
「あっ、でも、もし響がイメージを変えたいと思っているなら、それはそれで良いことだと思います。ひとつに絞る必要もありませんし。
今まで好きだったものも、これから新しく好きになるものも、どっちも大切にしていきたいと、私は思います」
「なるほど……。うん、なんかおかげで自信出てきた。
洋服に関しては、ちょっと大人っぽい服にも興味が出てきたんだよね。
でも私、そういうの全然詳しくないから、今度一緒に買い物付き合ってくれないかな?」
「はい、大歓迎です。お好みに沿えるかはわかりませんが、全力を尽くします」
「ありがとう!
あ、それと、おすすめのアニメとか漫画とか、本の話もいつかきいてみたいと思ってるんだよね」
「ええ、ええ、もちろんです! 今度たっぷり話しましょう!
ヒートアップしすぎると止まらなくなってしまう恐れがあるので、そのときは遠慮なく言ってくださいね……」
ああ、ちょっと察しはつくかも。でもたくさん話はききたいな。
そういえば、私何してたんだっけ。あ、買い物に行くための服装を決めてたんだった。
あらためてクローゼットの中を見回す。
ちょっと暑くなるらしいし、パーカーにスカートくらいの軽い服装がいいかな。
明日することが楽しみだと、明日の洋服選びも自然と楽しくなってくる。
中学生になって初めての友達とのお出かけだし、気合入れていくぞ!