可愛すぎる……!
寮の部屋の姿見に映った私を見て、私が思ったこと。
あ、違う違う。いつもこういうことしてるわけじゃないよ。今日は特別。だって、憧れのシンフォニア学園の制服に、初めてそでを通したんだから。
ブレザーでも、セーラー服でもない、特徴的な制服。上は基本的に黒色で、部分的に白い襟と袖口には、黒いラインが入っている。スカートも、白地に裾のところに黒いライン。左胸に、金色のメダルが光っている。それにつながっているメダルチェーンも素敵。
可愛すぎる……!(二回目)
「テンション上がりますよね」
隣で、同じように真新しい制服を着た真理英が嬉しそうに言った。
「私の好みにドンピシャです。早く着てみたかったんですよ」
寮に着いてから荷物を片付けるにあたって、同時に部屋の中をいろいろ探索してみたところ、クローゼットに制服がかかっていることに気づいた。それで、こんなふうに一緒に試着会を繰り広げている。
「あー、学校始まるの楽しみだなー!」
「はい!」
楽しい気分を味わった私たちは、しわがつかないうちに、制服をもとの通りクローゼットに戻した。
「片付けも一通り終わったことですし、もう少し自己紹介でもしてみましょうか」
ベッドに座った真理英が言った。
「賛成!」
「では、私からいきます。
改めまして、翠川真理英と申します。ぜひ、真理英と呼んでください。
好きなことは、物語に触れること、でしょうか。漫画も小説も大好きです。それでこの通り……」
真理英が自分のチェストの引き出しを開けた。そこには大量の本、本、本……。
「これでもだいぶ絞ったのですが、やはりこれだけの量を持ってくるとなるとかなりしんどかったです」
だろうね。
「シンフォニア学園には大きな図書館があるときいているので、早く行ってみたいと思っています。よろしくお願いします」
私は拍手。
「ではお次、お願いします」
「うん! えーと、相崎響です。私も、響って呼んでね。
好きなことは……、音楽、かな! 歌を歌うのも、曲をきくのも好き。
でも一番好きなのは、楽器を演奏すること! だから、今のところ、軽音楽部に入ろうと思ってる。
これからよろしくね、真理英!」
「はい! よろしくお願いします、響」
ここにきてようやく、お互いのことをきちんと名前で呼ぶことができた。
「軽音楽部、いいですね。私も部活のこと考えなくちゃなって思ってたんです」
「どうせだから、いろいろ体験してみても面白そうだよね。私は、真理英のその本の量に驚いたよ。そんなに読んできてるなんてすごいね。
ちなみに、どんな本が一番好きなの?」
そうきいた瞬間、真理英の目が、キランと輝いた。
「――魔法ものです」
その言葉に、私も思わずぴくっと反応。
「小さいころから、魔法使いや吸血鬼などが出てくるお話が好きで、魔法がある世界にずっとあこがれていました。言わば非現実的な世界ですけど、少し怪しげだけれど綺麗な魔法界の景色、摩訶不思議な魔法使いたちが織りなすストーリー、魔法使いたちの信念、すべてが素敵で――」
真理英は、話し方が丁寧で落ち着いているなと思っていたけれど、今はすごく生き生きとしている。本当に好きって気持ちが伝わってくる。
「私にも魔法が使えたらなって、何度思ったかわかりません。だから――」
真理英は机の引き出しから、あの懐中時計を取り出した。
私と真理英が初めて会ったあの日に見た、懐中時計。
「あの日の経験は、本当に夢のようでした。嬉しさのあまり、思わず叫び出しそうだったんです実は」
そう話す真理英は、愛おしそうに懐中時計をなでた。
「あの後、あれは本当は夢だったんじゃないかとも思ったりもしました。
でも、こうして偶然、またここで響に会えて、夢じゃなく、現実だったんだと、改めて思いました」
「うん」
私も引き出しから、音楽プレーヤーを取り出した。
「私も、信じられない体験すぎて、一瞬夢なんじゃないかと思った。真理英も、あの男の子も、幻だったんじゃないかって。
だから、こうしてまた真理英と話すことができるなんて、嬉しい」
私たちは、音楽プレーヤーと懐中時計を見つめて、ちょっと感傷に浸る。
しばらくして、真理英が言った。
「……あの日の出来事が夢じゃないと思ったのは、これもありますね」
そういって指さしたのは、例の懐中時計。正確には、そのチェーンの根本に結んである、緑色のリボン。
「可愛いですけど、私はつけた覚えがありません。あの日から、自然についていたんです。
やっぱり響の音楽プレーヤーにも、同じリボンがありますね」
そう。実をいうと、私の音楽プレーヤーにも、あの日から同じ形のピンク色のリボンがついている。端っこの方に細かく刺繍がしてある。
こんなオシャレなリボン、残念ながら私は、自分で買おうとしたことはない。
「やっぱさ、ミス・ウィッチの“印”、とかだったりするのかな?」
「そうかもしれませんね。これらを使って、私たちはあの姿になったようですし」
うーん、なんか特殊アイテムっぽくて、テンション上がるね。
「あの男の子も、やっぱり気になるよね。なんであんな場所にいたのか。冷静に考えれば、あの子も普通に魔法っぽいの使ってたし」
「もしかしたら……、背景にはもっと大きな“何か”があるのかも」
“何か”――。
うまく想像できないけど、心のわくわくが止まらない。
とりあえず謎だらけだけど、時が来ればまた何かあるでしょ。私たち、あのとき結構やれてたし、次に何かに巻き込まれてもきっと大丈夫!
「とりあえず、それぞれ音楽プレーヤーと懐中時計は、肌身離さず持っておこう」
気づけばだいぶ日が沈んできていた。
まあ、お昼ご飯食べてから家を出てきたから、そんなものか。
「あ、もうこんな時間……。お夕飯食べないと。やっぱり、食堂、行くよね?」
「はい。寮生が自由に使える食堂、確か近くの建物にあるんでしたっけ。ぜひ一緒に行きましょう!」
「もちろん! どんなメニューがあるかなー? ハンバーグとかあったらいいなー」
食堂でおいしくご飯を食べながら、私たちのこれからの生活に思いをはせた。
(ちなみに、私の大好物のデミグラスソースのハンバーグがメニューにあって、とても幸せでした)