私と彼女を包んでいた光が、完全に消えた。

 見ると目の前で、さっきの男の子がひっくり返っている。
「イテテ……。なんだ……? 今の光は」
 ズレた帽子を被り直しながら、男の子はゆっくりと上半身を起こす。そしてこちらを見たときの顔は、まるで南極でライオンを発見したみたいな顔だった。

「そ、それは……、ミス・ウィッチ」

 ミス・ウィッチ?

「なんでこんなところに……!? しかも、いつものやつらじゃない……。
 まさか、新しく生まれたとでもいうのか? まだオイラ、特訓の途中なのに……」

 言っている内容はよくわからないけど、男の子はわたしたちを見て、“ウィッチ”と言った。
 隣の彼女にきく。

「ねえ、“ウィッチ”って、“魔女”であってる?」
「……ええ」

 ……私たち、ガチで魔女ウィッチになっちゃったのか?

「……いや関係ない! オイラの攻撃は鍛え上げられている!
 むしろここでオイラがお前らを倒せば、みんなほめてくれるはず!」

 男の子の顔がぱぁっと明るくなり、すぐにまた真剣な顔になる。


「というわけだ! お前ら、さっさと倒されろっ!!」


 その声とともに、ふたたび光線が!

「わっ!?」

 反射的に私は、光線を払いのけるように手を振った。
 パシッ! とピンク色に光る。

 ヒュン、…ズドン!

 ……なんか、ちょっと離れたところで音がしたような?
 よく見ると、男の子のさらに後ろ、ちょっと離れたところの壁がほろほろ崩れていた。

 いま私、光線を払い除けた。
 しかもたぶん、魔法で。
 おおお……。

 私は、自分の体に意識を集中させた。
 芯から力がみなぎる。羽が生えたみたいに体が軽い。
 隣の彼女を見た。目が合うと、彼女は凛々しく微笑む。うん、きっと彼女も同じこと思ってる。

 できる。今の私たちなら。


「うんにゅ……。これならどうだ!」

 男の子は、今度は両手で構えて、そこにありったけの光を溜め込んでいる。
 ……うん。これはちょっと受けたくはないな。
 光でいっぱいになった男の子の手から、ドでかい光線が勢いよく放たれた。

 迫る光線――、ここ!

「跳ぶよ!」 

 私と彼女は前へジャンプ。
 ふわりと浮かんだ私たちは、男の子の頭上を通り越して着地した。(男の子が身長低くて助かった!)
 そして、私たちが避けた光線は見事、奥の壁とその前の瓦礫がれきに命中。あらゆるものを吹き飛ばした。
 で、偶然その壁が外に面していたみたいで、壁に人が通れるくらいにポッカリ穴が開いて、きれいな青空が見えた。

 ……あぶな。


「ぬおお! ちょこまかと!」

 怒りで、服だけじゃなく顔も真っ赤にした男の子は、細い光線を乱射してきた。屋内で狭いから、光線が良く跳はね返ってきて、とても厄介。

「ちょっと、私に任せてみてください」

 今度は彼女が私の前に立つ。そして左手を男の子のほうに向ける。
 彼女の前に、緑色の光の盾ができた。
 光線は盾にあたって、そこら中に跳ね返る。

「うおぅっ!?」

 返ってきた光線を、一生懸命避ける男の子。

「すごいね!」
「うまくいきました!」

 そして、そのすきに私と彼女は駆け出し、またもや男の子の頭上をジャンプ! そのままさっき空いた壁の穴まで突き進む!

 最初に断っておくね。ここは三階。

 もちろん、そのまま飛び出したら地面に向かって真っ逆さまだ。
 だから私たちは走っているときに、着ているケープマントの留め金を外した。風になびくマント。なんか行ける気がする! って思っちゃった私と彼女は、穴から出て、瓦礫だらけで足の踏み場がないベランダを飛び越し、そのまま外へ飛び出した!

 そのまま地面めがけて真っ逆さま……とはならず、いい感じにマントがパラシュートに。あと、手でこげば多少上に上がれたり、方向転換できたりすることがわかった。

 ふわふわと宙に漂ただよう私たち。

 下を見ると、ショッピングモールに買い物に来た人たちが歩いているのが見える。人って結構下向いて歩きがちなんだよね。空に浮かぶ私たちには、気づいていないみたい。外でイベントもやってるから、結構騒がしいし。
 でも念のため距離をとろうと、私たちはなるべく上空のほうへ移動した。
 そのうち男の子も、私たちを追って外に出てきた。
 ちなみに男の子は、背中になんかよくわからないものを背負ってて、そこからエネルギーのようなものを発射して、その力で浮いているみたい。
 なんか、ロボットアニメを思い出す。

「逃さないぞ!」

 男の子はまた、両手を構えだした。
 しつこいなぁ……。
 
 ここは、テレビで見た変身ヒロインっぽく、一発決めちゃいますか。
 ……まあ、どうやるかは知らないけど。


「アイツを追っ払おう!」
 私は、彼女に呼び掛けた。
「はい! 援護えんごします!」

 彼女が、私の前に出る。

 彼女の手に、突然杖が出現した!
 先端にハートのような飾りがついている。

 彼女はそれを正面に構える。すると、さっきより大きな盾が出てきた!
 男の子が力いっぱい放った光線を防ぎ、光線は周りに散っていく。

「なにそれ! かっこいい! 私も欲しい!」
「杖が欲しい! って思ったらなんか出てきました!」

 まじか!
 杖、出ろ! そう願うと、手の中にぽんと杖が出現した。なんかいろいろとうまくいくなぁ。傘くらいの長さで、先っぽにはト音記号をかたどった飾りがついている可愛い杖。
 私はノリノリで構えてみる。
 杖の先に、どんどん光が集まってくる。おお、すごい!
 今、私たちの前には彼女が作った盾があって、私は男の子の姿を確認することができない。つまり、男の子からも私の姿は見えていないはず。

 このすきに、光をいっぱいためて――。

「OKだよ!」
「了解しました!」

 私が合図すると、彼女は盾を前にぐいっと押す。

「うおっとっとっと……」 

 よろめく声が聞こえる。力のバランスが崩れて、男の子が空中で体勢をくずしたらしい。

 今がチャンス!

 彼女がよけたところで、私はため込んだエネルギーの発射用意。
 今までで一番、強い力を感じる。
 エネルギーは渦を巻きながら、ますます大きくなっていく。

 うん、ここでなんか、こう、かっこいい技名とか言えたら……。
 えーと、その……。……ダメだ思いつかないっ!


「おおりゃああああああああああ!」


 力任せに叫んで、エネルギーを男の子のほうに向けて放った!

「おわっ!!」

 男の子が盾みたいなものを構える。でも押される力に耐えきれず、じりじりと後退。最後は、


「うわああああああぁぁぁぁぁぁ……」


 流れ星みたいにヒューッと、盾と一緒にふっ飛んでいった。