エピソード②　　グラスの女王様

「ふう…。」

学校に着き、一息つくと、私は二年三組の教室のドアに手をかける。

…正直、教室の中に入るのは怖い…。だけど、このまま帰るわけにもいかない。

中からは、楽しそうなクラスの子の話し声が聞こえてくる。

意を決した私は、ガラリと教室のドアを開け、中に入る。

「おっ、おはよう…。」

そうクラスの皆に声をかけると、さっきまで騒がしかった教室が、一瞬にしてシーンと静かになった。

そしてまたすぐに、クラスの皆のおしゃべりで暮らすが騒がしくなる。

まるで私の存在など最初からなかったかのように…。

私はすごすごと自分の席の前まで行くと、机の上や、中を素早くチェックする。

『ブス！！』

『死ね！！』

『学校に来るな！！』

そんな暴言が机の上に書かれていたり、そう書かれている紙が机の中に入ったりしているから。

「…良かった。今日は何もされていない。」

ほっと息をついたのもつかの間。

「あーら、星野さん。来たの〜。」

頭上からそう声が降ってくる。

振り返ると、このクラスの上王様的存在であり、私が住んでいるこの町の大地主の娘でもある新条《しんじょう》マキさんが声をかけてきた。

「しっ、新条さん…。」

思わず肩をビクッと震わせる。

「ちょっと話があるのよ。付いて来てくれない？」

冷たい目で私を見つめながら、新条さんは指でドアの方を示す。

「はい…。」

私はそう返事をすると、スクールカバンを机の上に置いて、新条さんたちの後に付いていく。正直、行きたくないけれど、逆らったりしたら後からもっと嫌な目に遭うことを知っているから断れない…。

「…。ねぇ、また星野さん、新条さんたちに連れて行かれたわよ。」

「毎日毎日…。本当にもういい加減にしてくれよ。」

「新条さんたちがしているのって、いじめだよね?止めなくていいわけ？」

「そんなこと言ったら、あんたも新条さんから標的にされるわよ。」

「やばっ！！」

クラスの子たちが、ヒソヒソコソコソそう話しているのを聞きながら、私は、クラスから出た。