ツレナイ彼×ツヨガリ彼女

最近、忙しくて景色を見る余裕もなかった自分に気づく。

忙しいことがうれしい、自分の居場所だと勘違いしていた。
自分をいたわってあげられるのは自分しかいなかったのに。
心のサインに気づかなかった。

「お待たせ」
慶介はちぐはぐなカップを手に戻ってきた。
「あったかいのにしてみた。飲めそ?」
「ありがとう」
理香子の手には大きめのカップ。
その中には慶介が入れてくれた温かいレモネード。
両手で包むようにして理香子はレモネードを口にした。

「いいだろ、ここ」
「うん。」
景色を見る理香子の横顔を見つめながら慶介が満足そうに微笑む。

「景色を見て、きれいだなって感じる余裕すら、無くしちゃってた。私。」
「・・・これから楽しめばいい」
「ずっと止まることが怖かったのかも。」
「ん?」
「私、兄弟がいてね。下に3人。おばあちゃんが亡くなってからは母親代わりを一手に引き受けて、家事もしたし、家計を助けるためにバイトもしてた。」
慶介は初めて聞く話だった。

「立ち止まったら、自分が壊れるかもしれないって思ってた。」
「・・・」
「立ち止まったら全部壊れちゃうんじゃないかって。私が止まったらみんなが壊れていなくなっちゃうんじゃないかって。」
遠くの景色を見つめる理香子。
慶介は座っていた自分の椅子を理香子に近づけた。