ツレナイ彼×ツヨガリ彼女

取引先から帰るとき、やけに汗ばんだ体に違和感を感じていた。
満員電車の中では意識を保つことに必死だった。
どこの駅かもわからずに降りた駅のホーム。
何も考えられない。
全身が震えて汗が吹き出しながらも、頭に浮かぶのはなぜか慶介だった。

気づけば慶介が大丈夫と耳元で言ってくれて、やっと呼吸ができた。
全身のマヒしていた感覚が少しずつもとに戻った。

「大丈夫」

慶介は理香子を抱きしめながらまた、『大丈夫』と魔法をかけるように言い続けてくれた。

二人の関係に名前を付けるとしたらなんというのだろうか。

でも、ほかの誰にもない感覚。
ほかの誰とも違う。

慶介にとって理香子は。
理香子にとって慶介は。

ほかの誰とも違う、唯一無二の存在であることをお互いに自覚していた。

「もう、大丈夫だ。もう。離さない。」
慶介の声が、消えたくなる理香子の壊れた心をつなぎとめてくれていた。