ツレナイ彼×ツヨガリ彼女

慶介の父の入院する病院。
はじめて理香子は慶介の運転する車の助手席に乗った。

運転する慶介の横顔をふと見たり、ハンドルを握るその手を見ながら、理香子はぐっと近づく距離と、慶介からの『好き』という言葉に慶介を意識せずにいられなかった。

病院に着くと理香子は慶介の邪魔をしないように慶介の後ろをついていくように歩く。
慶介はちらりと後ろを気にしながら、歩くペースをあわせて歩く。

そんな距離さえ、昨日までの距離とはまた違う。
遠いようでかなり近く感じるふたりだった。

「急に職場に連絡ごめんなさいね。」
病院につくと一人の女性が慶介を待っていた。
慶介の父の現在の妻となっている人だ。
「父の状態は」
「よくなくて。もしかしたらって場合も覚悟するように医師からは言われてるの。」
女性は父の病室に向かいながら状況を報告した。

ずいぶんと前から持病が悪化していて、すでに心臓が動いているのも不思議な状態らしい。

病室の前に立ち、慶介が病室の扉を開けようとすると女性は急に慶介の手をとめた。

「戸籍上では、あなたは私の息子になるのよね。」
「・・・まぁ」
「私は長い間、あなたのお父さんの秘書として会社に勤めていました。」
女性は慶介の目をまっすぐに見つめる。
「小さかったころから、あなたのこともあなたとお母さんのこともよく知っていました。」
「・・・」
「あなたのお父さん、最近は記憶があいまいになっていてね。年齢もあるけれど、病気で入院することが増えてからは私のことも秘書としての記憶しかないことが増えて。今ではすっかり、私は秘書だって認識してるの。」
「俺のことも忘れているかもしれないってことですか?」
少しとげのある声で慶介が言うと女性は寂しそうにうつむきふっと笑った。