ツレナイ彼×ツヨガリ彼女

「楽しいことばかりではない30年ですが、妻は必死に私を支えてきてくれました。私たち夫婦には残念ながら子供はおりません。しかしゴールデンレトリバーのタローとジローという息子も居ます。ささやかながらも幸せな30年でした。」
「・・・」
「老後は二人でキャンピングカーを買って、日本一周の旅行をする。各地の温泉に入ったり、名物を食べたり、ゆっくりと外でお互いに好きな読書をしよう。それが私たち夫婦の夢でした。」
上司は社員ひとりひとりに視線を向けながら話をする。

「そんな妻が先日病気とわかりました。」
再び会場内の空気が変わる。
「あちこち、病院を変えていろいろと調べましたが、これといった治療法は見つからず、誰でも命に限りはありますが妻の命の限りはあまりにも短いものだと知りました。」

理香子は自然と瞳からあふれるものがあった。
「全く気付きませんでした。仕事もやりがいがあり、それなりの地位も築けて、家庭でも2人と2匹の生活が充実していると思っていました。妻の体調が悪かったのは最近始まったことではなかったようです。これは私がこの先一生後悔する事実です。」
上司も少し涙ぐむ。
「仕事は変わりがたくさんいます。今まで同期や仲間はどんどんとこの会社を去りましたが、誰かが去れば誰かと新しく出会い、会社はまわっていきます。しかし、大切な妻の夫は私だけです。」
次々に涙が溢れて理香子の視界がかすむ。