「それ、田舎ルールですか?」

桃乃が東京に出てきて数日。たまたま寄ったカフェで隣の席に座っていたのが朔だった。

「……じろじろ見すぎ」
「ごめんなさい、でもその首のタトゥー、めっちゃかっこいいですね!」

田舎ではなかなか見ない本物の都会男子(※タトゥー入り)に興奮した桃乃は、興味津々で朔を見つめていた。

「どこで入れたんですか? 痛かったですか? もしかして意味とかあるんですか?」
「……インタビュー?」
「いえ、ただの純粋な好奇心です!」

朔はコーヒーを一口飲み、わずかに溜息をついた。

「特に意味なんかないよ」
「え、でも黒いアザミは『復讐』とか『報復』っていう花言葉が——」
「やけに詳しいな」
「さっき調べました!」

目を輝かせてスマホを掲げる桃乃。朔は「本当に純粋なだけか?」と少し疑いの目を向けたが、あまりにもキラキラした顔にため息をつくしかなかった。

「ま、そんなとこ」
「え〜、でもタトゥーって一生消えないんですよね? なのに適当につけるってすごい……」

言われてみればその通りだった。朔は少し言葉に詰まったが、適当に誤魔化す。

「……田舎にはタトゥーのやついないの?」
「いません! いたら一発で噂になります!『○○さん家の息子さん、東京行ってタトゥー入れたらしいよ』って!」
「……やばいな」
「都会は全然違うんですね! さすが歌舞伎町!」

桃乃は目を輝かせながら、スマホのメモに何かをカタカタと打ち込んでいた。

「なにメモしてんの?」
「タトゥーの人に質問するときのポイントです!」
「……普通は聞かないぞ」
「えっ!? そうなんですか!?」

衝撃を受ける桃乃。

「田舎だと『何で入れたの?』とか『どこで入れたの?』とか、普通に聞いちゃいますよ」
「ここは東京」
「……都会は難しいですね……」

桃乃は肩を落としながら、そっとメモを「質問してはいけないことリスト」に書き換えた。

「まあ、お前なら許すけど」
「えっ!」
「……何でもない」

照れくさそうにコーヒーを飲む朔と、それを見て「都会の人ってツンデレが多いのかも!」と新たなメモを書き加える桃乃だった。