「なぁ……『ホストクラブ潜入大作戦』ってなんだ?」

またしても妙なことを言い出した桃乃に、朔はうんざりしたように尋ねる。

「簡単に言うと、ホストクラブの裏側を徹底リサーチしてみようっていう試みです!」

「……だから、それ普通に営業妨害だろ」

「違います! あくまで、知的好奇心による探求心です!」

「知的好奇心で店の迷惑かけるな」

「まぁまぁ、そういうわけで、さっそく大作戦開始です!」

【作戦①:ホストの仕事を体験せよ!】

「というわけで、墨さん! 私、お客さんとしてじゃなくホスト側を体験してみたいです!」

「は?」

朔が露骨に嫌そうな顔をするが、桃乃はお構いなしに、店の裏で雑用をしていた新人ホストに話しかける。

「ねぇねぇ、おしぼりってどうやって渡せばいいんですか?」

「あ、普通にこうやって——」

「なるほど! では実践!」

桃乃は朔の目の前におしぼりを差し出し、満面の笑みで言った。

「お客様、こちらおしぼりです♡」

「……なんで俺が客役やらされてんだよ」

「どうですか? 癒されました?」

「逆に疲れたわ」

【作戦②:ホストの接客術を盗め!】

桃乃はVIP席の隅に座り、朔の接客を観察していた。

「なるほど……相槌の打ち方、距離感の詰め方、視線の使い方……」

ぶつぶつとノートにメモを取る桃乃に、朔が呆れたように視線を向ける。

「なぁ、お前、マジで何がしたいんだ」

「ホストの接客術を学んで、私も“疑似ホスト”になれるようになりたいんです!」

「いや、なんでホストになりたがってんだよ」

「墨さんの真似してみますね!」

桃乃は急に朔の腕に手を絡め、甘い声で囁いた。

「ねぇ、楽しんでる?」

「……お前がやると詐欺っぽいんだが」

「なんでですか!」

「顔がマジだから」

【作戦③:ホストの営業LINEを学べ!】

「墨さん! お客さんに送るLINEってどんな感じなんですか?」

「は?」

「ほら、営業LINEってあるじゃないですか! それを勉強したいんです!」

「お前に教える必要なくね?」

「いいじゃないですか! じゃあ、私がホストになったつもりで送るので、添削してください!」

桃乃はスマホを取り出し、朔にLINEを送る。

桃乃:「今日は楽しかったね♡ 次もまた来てくれる?」

朔は無言でスマホを見つめた後、一言。

「キモい」

「えぇっ!? どの辺が!?」

「お前が送ると純粋に詐欺っぽい」

「またそれ!?」

【作戦の結果】

「結局、何も学べませんでした……」

店の外に出た桃乃は、がっくりと肩を落とす。

「そりゃそうだ。お前、ホストになりたいんじゃなくて、ただ邪魔してただけだからな」

「でも、墨さんがめちゃくちゃいいホストなのはわかりました!」

「……おう」

「だから、次は『ホストクラブ開業大作戦』をやります!」

「お前、それもうホストクラブ潰しにきてるだろ」

こうして桃乃の無謀な挑戦は幕を閉じたが、彼女の歌舞伎町探求の旅はまだまだ続くのだった——。