桃乃が地元に帰省した数日後——。
まさかの事態が発生した。
「……お前のじいちゃん、俺を狩る気満々なんだけど」
電話越しの朔の声が、いつになく真剣だった。
「狩るって……え?」
「今、お前の実家の前で、お前のじいちゃんがクワ持って立ってんだけど」
「えっっっ!?!??」
「ちょっと目を離したら、畑から竹槍持ってくるかもしれない」
「じいちゃん、時代が戦国時代……!!」
慌てて家を飛び出すと、玄関先に、ガチでクワを握りしめた祖父の姿があった。
そして、その視線の先には——
スーツ姿で仁王立ちする朔。
(※田舎の広い庭先で、なぜかホストとじいちゃんが一触即発。)
「お前、どこのどいつじゃァ……!」
「……朔です」
「名前など聞いとらん!」
「いや、聞いたじゃん」
「ホスト、じゃと?」
「……はい」
「ふざけるなァァァ!!!」
じいちゃんがクワを振り上げる。
「じ、じいちゃんストップ!!」
桃乃が慌てて間に入る。
「違うの! 墨さんは悪い人じゃないの!」
「ほう……悪い人ではない、と?」
「そう! ちゃんとお仕事してる人なの!」
「ふむ……では、試してやろう」
「え?」
じいちゃんは、クワを降ろすと、なぜか背後の畑を指さした。
「貴様に、スイカ割りをする資格があるか試してやる!」
「え?」
「え?」
「スイカを真っ二つにできたら、お前を認めよう!」
「いや、ホストってそういう試験ある職業じゃないんだけど」
「あるかもしれんじゃろ?」
「ないよ」
「文句があるなら、竹槍を持ってこようか?」
「試験内容に納得しました」
こうして、「ホスト vs じいちゃんのスイカ割り対決」が始まった——。
目隠しをされ、スイカの前に立つ朔。
じいちゃんの号令がかかる。
「行くぞ!!」
「……おう」
スッ……(朔、静かに木刀を構える)
「はっ!!!」
バシィィィィィン!!!!!
見事にスイカが真っ二つ。
じいちゃん、腕組みしてうなる。
「……見事な腕前」
「そりゃどうも」
「貴様、剣道をやっていたな?」
「いや、やってねぇよ」
「では、ホスト修行で学んだか?」
「ホスト修行ってなんだよ」
「やはり、おぬし……ただ者ではないな?」
「だから、普通にホストだって」
「認めよう」
「唐突」
こうして、朔 vs じいちゃんのスイカ割りバトルは、ホスト側の勝利で幕を閉じた。
