——某月某日、桃乃の実家の果樹園にて。
「お前、本当に来たの?」
「来たけど?」
桃乃は信じられないものを見るような目で、収穫用の軍手をはめた朔(ホスト)を見つめていた。
「いやいやいや……なんで??」
「お前が『うちの果樹園、収穫期めっちゃ忙しいんですよね〜』とか言うから」
「いや、だからって……!」
まさかのホスト、果樹園でバイト。
そんな光景、誰が想像した??
「……てか、墨さん、似合わなすぎません?」
「うるせぇ」
いつものクールな佇まいはそのままに、彼は慣れない長靴姿で立っていた。
「その長靴、似合ってないです」
「知るか」
「てか、なんでバイトしようと思ったんですか?」
「……お前の実家、興味あったし」
「えっ……?」
「あと、都会で暇だった」
「動機、適当!!!」
そんなこんなで——ホスト・朔、果樹園バイト開始。
【収穫開始!ホスト vs. フルーツ】
「まず、こうやって優しく果物を……」
桃乃が見本を見せる。
朔はじっと観察した後、スッと手を伸ばして果物をもぎ取った。
「ほら、できた」
「……え?」
「こうだろ?」
「いや、めっちゃスムーズ!!」
「そりゃ、やればできる」
(なんか……妙に様になってる……)
スラリとした腕で、次々と果物を収穫していく朔。
「……なんかムカつくな」
「は?」
「素人なのに、普通に上手いのなんなんですか?」
「……お前より器用だから」
「それは認めません!!!!」
一方——
ホスト vs. 虫、開戦。
「ん?」
ふと、朔の腕にカナブンが止まった。
「……」
「……」
「……なんか乗った」
「カナブンですね」
「……」
「……」
「お前が取れ」
「えぇ!? 墨さん、虫苦手なんですか?」
「別に。触りたくないだけ」
「いや、それ苦手って言うんですよ!!」
仕方なく桃乃がカナブンを指でつまんでポイっとすると、朔は何事もなかったように作業を再開した。
(絶対ビビってた……)
【休憩タイム!ホスト vs. 田舎おばあちゃん】
「お茶にしよかねぇ〜」
休憩時間になると、桃乃のおばあちゃんが手作りのお茶菓子を持ってきた。
「おや? そっちの兄ちゃん、どこの子かね?」
「えっ、あ、えっと……その……都会の友達?」
桃乃が適当にごまかすと、朔は静かに一礼。
「都会の兄ちゃんが、こんなとこでバイトかい。偉いねぇ」
「……まぁ」
「あんた、顔がいいねぇ!!」
「は?」
突然の爆弾発言。
「都会には、あんたみたいな男前がゴロゴロおるんかねぇ?」
「いや、そんなことは——」
「うちの桃乃、まだ彼氏おらんのよ」
「ばあちゃん!?!?」
「どうかね? 桃乃をもらってくれんかね?」
「待って待って待って!!!」
「俺に聞くの?」
「聞かないでください!!!!!」
爆笑する朔。
ニヤニヤするおばあちゃん。
顔が真っ赤な桃乃。
——完全に地獄。
「……まぁ、考えとく」
「考えないでください!!!!!」
おばあちゃん、めちゃくちゃ喜んでるんですけど!!?!?
【作業終了!ホスト vs. 田舎温泉】
「ふぅ……終わった……」
夕暮れ時。
一日中働いてクタクタの桃乃。
一方——
「……」
朔は汗だくになりながら、さすがに疲れた様子だった。
「墨さん、ホストより果樹園のほうがキツいんじゃないですか?」
「……いや、ホストのほうが楽」
「でしょ!?!? うちの仕事、なめてましたね!?!?」
「……まぁな」
まさかの素直な認め。
「……で、このあとどうすんの?」
「ん?」
「お前んとこ、温泉あるって言ってたろ」
「え、あ、まぁ……近くにありますけど」
「行く」
「えええええ!?」
ホストが、田舎の温泉……!?!?
そして——
「……」
「……」
「お前、なんで女湯の前に立ってんの?」
「違う違う違う!!!」
「……」
「墨さんが入ってる間、どうしようかなって思って……」
「……俺が出るまで、ここで待ってるの?」
「いや、そういうつもりじゃ——」
「お前、俺が出るの待ってるタイプの女?」
「ちがーーーーーーう!!!」
叫びながら逃げる桃乃。
「ははっ」
温泉街に、朔の笑い声が響いた——。
——こうして、ホストの田舎バイト大作戦は幕を閉じた。
