桃乃は小さなノートを片手に、ホストクラブのメニュー表を真剣に見つめていた。
「……墨さん」
「ん?」
「このシャンパン、普通のバーなら……せいぜい1万円くらいですよね?」
「まあな」
「でも、ここでは10万?」
「ああ、そうだけど?」
「——!!!」
桃乃は衝撃を受けすぎて、一瞬呼吸が止まった。
「こ、これ、一桁多くないですか!? ミスプリントとかじゃなく!?」
「じゃねえよ」
「これ……フルーツ盛りも……めちゃくちゃ高い……」
「そりゃあな」
「なんでですか!? まさか、メロンが一個丸ごと乗ってるとか!?」
「いや、普通にカットされてる」
「え、じゃあカット代!?」
「まあ、そういうことにしとけ」
「カット代で田舎の定食屋のランチ3回食べられる……!!」
「お前、比べる対象が庶民的すぎるんだよ」
「これじゃあ、気軽に『とりあえずフルーツ盛り!』とか頼めないじゃないですか!!」
「そもそも、お前は頼まない側の人間だろ」
「それはそうなんですけど!! でも、ちょっとしたパフェくらいの値段でしょ!? と思っていたのに!!」
「そんな感覚でホストクラブ来るやついねえよ」
「東京、怖い……!!」
「いや、歌舞伎町が特殊なだけな」
桃乃はメニュー表を震える手で閉じた。
「私、今日からフルーツ盛りを神聖なものとして扱います……」
「勝手に拝むな」
「お財布的に余裕ができたら、いつか……いつか頼んでみます……」
「その時は、ちゃんと俺の卓でな」
「えっ、何その圧!? もっと自由に頼ませてください!!」
「ダメ」
「理不尽!!」
こうして、田舎娘の「ホストクラブの価格に震える会」は幕を閉じたのだった。
