夜のファミレス。

 深夜料金に突入し、微妙に高くなったカフェラテを前に、桃乃は腕を組んでいた。

 「ホストの本気って何パーセント?」

 これが、今夜の議題である。

「……で、どういう意味だ?」

「だから、ホストの人って『君だけだよ』とか『本当に好き』とか言うじゃないですか?」

「言うな」

「それって、どのくらい本気なんですか?」

 朔は、スプーンでアイスコーヒーを混ぜながら、めんどくさそうにため息をつく。

「……お前、また変なこと調べたな?」

「変じゃないですよ! お客さん的には気になることです!」

「お前、ホストに通ってんの?」

「通ってませんけど!」

 桃乃が勢いよくノートを開くと、「ホストのセリフの信憑性一覧」という表があった。

 朔は思わず吹き出す。

「なにこれ」

「独自調査の結果です」

「どこで調査した」

「ネットと偏見です」

「ダメじゃねぇか」

「で、見てください」

 桃乃がボールペンでトントンと表を指す。

「君だけだよ」……信憑性:10%
「お前が一番大事」……信憑性:20%
「俺、本気だから」……信憑性:1%

「1%!?」

「いや、だって絶対嘘でしょ!?」

「“絶対”は言い過ぎだろ」

「じゃあ、墨さんはどうなんですか?」

「俺?」

「『本気』って言ったことあるんですか?」

 朔はコーヒーを飲みながら、しばらく考える。

「……あるな」

「えっ、マジですか?」

「まぁな」

「で、その本気の割合は?」

「……30%くらい?」

「ほぼ嘘じゃないですか!!」

「100%にするわけねぇだろ。俺、ホストだぞ?」

「うわぁぁぁぁ! やっぱり信用できない!」

 桃乃が頭を抱えるのを見て、朔はクスクス笑う。

「……じゃあさ」

「?」

「逆に、お前が男に“本気”って言う時は?」

「え?」

「100%?」

「そりゃ、そう……かな?」

「ほんとか?」

 朔は少し顔を寄せる。

「お前みたいな田舎娘がさ、男に『本気』って言ったとして……本当に100%?」

「……」

 桃乃は、少しだけ言葉に詰まる。

 100%かどうか——考えたこともなかった。

「……えっ」

「ほら、迷った」

「ち、違いますよ! ただ、考えたことなかっただけで……!」

「じゃあ、ホストの俺が本気だって言ったら?」

「———!!」

 ズバァァァン!!!!!(※桃乃の頭がフリーズする音)

「ちょっ……そ、それは……!」

「ん?」

「卑怯です!」

「何が?」

「そ、そういうこと言うのが!」

「俺、ホストだからな」

「ぐぬぬぬ……!」

 桃乃は悔しそうにノートを閉じた。

「……もういいです! ホストの本気は、結局謎のままってことで!」

「まぁ、謎のほうが夢あるしな」

「うわぁ、適当……!」

 こうして、「ホストの本気何パーセント?」論争は、今日も決着しなかった——。