鏡映しのマリアージュ

◯翌日(昼休み)・学校の食堂にて
こころと共に昼食を食べに来た蕾は、ちょうど空いている長机を見つけトレーを置く。その瞬間、向かい側から2つの異なる影が机上に落ちる。

蕾・明・凪「あ」

偶然1つのテーブルに集合した3人は互いの顔を見合わせる。

蕾「今日2人も食堂?」
明「そー。って雫は?」
凪「パン買って友達と教室で食べるって。さっき話した」

世間話をしながら当たり前のように1つのテーブルに着く蕾たち。蕾の真向かいに凪、その隣に明とその友人の原仲(ピアスが目立ついかにもヤンチャな印象の男子)が座る形式になる。

こころ(すっごい自然な流れで相席すんじゃん。これがいわゆる『ふたななじみ』)
蕾「あっ、ごめん勝手に!席ここで大丈夫だった?」
こころ「うん。気にしないで」
原仲(すっっっげー美人さんがいらっしゃる)

髪の毛を耳にかけ直す所作でさえもクールなこころに見惚れる原仲。こころが明の正面に腰を下ろし、各々が食事を始める。「いただきまーすっ」と合掌した蕾は、皿の端の方に添えられたブロッコリーと目が合い思わず顔を歪める。

蕾(なっ!まさかここで我が宿敵と対面することになろうとは……!)

食べ残すわけにもいかず震える箸でなんとかブロッコリーを摘もうとする蕾の視界に、向かい側からひょいっと別の箸が一膳現れる。見れば、明が特に何を言うわけでもなく当然のように蕾の皿から回収したブロッコリーを口に運んでいる。原仲と雑談をしながら次々とブロッコリーを食べ進めてくれる明に蕾は心の中で手を合わせる。

蕾(本当にありがとうございます。そういうところも大好きです)

そんな蕾の前で、凪が黒曜石のように艶やかな瞳を更に一層キラキラと輝かせる。

凪「わ~、つぼみの唐揚げも美味しそう」
蕾「1個いる?」
凪「やった!じゃあ俺の生姜焼きもあげる~」
蕾「わーい♪」

ブロッコリーを回収する明。それぞれのおかずをお裾分けし合う蕾と凪。それぞれの手が交差する光景を傍観するこころがボソッとツッコむ。

こころ「……なにこの新手の三角食べ」
蕾「た、食べようと思ったら食べれるんだよっ、ブロッコリー!」
こころ「ごめんそこじゃない」

ズレた蕾の弁明に真顔で返すこころは、正面に並ぶ双子にふと目を向ける。

こころ「というか、こうやって一緒にいるのを見るとやっぱり似てるんだね優木兄弟」
蕾「え」
原仲「それ俺も思ってた!二卵性といえど侮れん。ぱっと見どっちがどっちか分かんねーもん」
こころ「いやあなた誰」
原仲「7組の原仲で~す」

初対面なのに妙に馴れ馴れしい原仲に若干引き気味のこころ。その隣で、蕾は何やら会話を繰り広げている双子を見つめる。

凪「めい数学の小テストの点数悪すぎない?50点満点中5点って…」
明「ノー勉で10%の理解は得てるんだからある意味すごくね?てかなんで凪が知ってんの?」
凪「さっき先生にめいと間違えられて、俺がお説教されかけたんだよ」
明「それはごめん!」
蕾(似てはいる、のか?まぁ双子だし。私には全くもって別人にしか見えないんだけどな)

自分たちに向けられる少し不可解な眼差しを察知した凪が蕾の方を向く。一瞬驚いたような顔をした凪はふんわり微笑む。

凪「つぼみ、ご飯粒ついてる」
蕾「んえ、どこ?」

口元で手を彷徨わせる蕾。その頬に凪は腰を浮かせてそっと手を伸ばす。綺麗な指先が蕾の肌に触れ、米粒を乗せて離れていく。

凪「…かわい」

一際優しい眼差しと爽やかな仕草が織りなすロマンチック(?)な状況に、周囲にいた女子生徒達が黄色い声を上げる。原仲も両手で口を覆い乙女な反応をしている。

明「お前ほんとそういうとこ」
蕾「あんたほんとそういうとこ」

色づく周囲の空気とは対照的に、お馴染みの天然言動にハモりながら呆れる蕾と明、2人の言葉の意味がわからず小首を傾げる凪。