◯カラオケ終了後・朝比奈家(蕾の部屋)
蕾(言えるわけがない)
部屋着に着替えた蕾は、360度フィギュアやらタペストリーやらアクリルスタンドやらのアニメ・漫画・ゲームグッズに囲まれた自室の中心で天井を仰ぐ。
蕾「実はここ数年アニソン・キャラソンしかまともに耳にしていないオタクです……なんて今更言えるわけがないんだよーっ!」
蕾は情けない顔のまま勢いに任せて仰向けにベッドに倒れ込む。
蕾(朝比奈蕾、17歳。表向きは普通の女子高生。しかしその実、人生におけるエネルギーのほぼすべてを推し活に捧げる、2次元を愛しとにかく2次元を愛する典型的なオタク女子――)
蕾「K-POP?洋楽?とか分かんないよ、最近話題のバンドとか知らんよ。こちとらリリース9周年目にもかかわらず何故か1年半しか時が進んでない音ゲーの曲しか聴いとらんのよ。カラオケまじで地獄!」
ベッドの上で枕を抱えてゴロゴロとのたうち回る蕾は突然ムクリと起き上がる。
蕾「よし、一旦頭を冷やそう」
やけにキリッとした蕾はそう呟くやいなやスマホを手にし、ゲームアプリを起動する。一瞬暗転した画面に『アイドリズムプリンス!』というタイトルコール・文字とともに数々のイケメンキャラクター達が現れる。
蕾「きゃー!みんな今日もかっこいい♪安定の供給に感謝感激」
頭を冷やすどころかむしろテンション上げ上げで画面を拝む蕾が背にする窓が、コンコンっと外から叩かれる。スマホから顔を上げた蕾は特に驚く様子もなくカーテンと窓を開ける。窓の向こうには、ぴったり面するように設計された隣の家の窓の縁に両手を付き、上半身を乗り出す明の姿が。
明「蕾ー数IIの教科書貸ーして。学校に忘れちった」
中学時代のジャージ(部屋着)を着た明はそう告げると、慣れた手つきで自分の身体を持ち上げ窓枠の上に足をかけて軽やかに蕾の部屋へと飛び移る。「よいしょ」とカーペットに着地した明は「おぉ~」と室内を見回す。
明「何度見ても壮観だな……あ、蕾の初恋泥棒だ。お久しぶりです」
蕾「その言い方やめい」
黒髪センター分けのキャラの缶バッジやアクスタに向かって深々と一礼する明。その頭を蕾が教科書でスパァンと軽くはたく。
明「あれ?この漫画の3巻どこ?俺も読みたい」
蕾「あーそれは今凪に貸し出し中」
明「んじゃ、その次俺予約ね!」
目的を果たしても帰る素振りを見せず、むしろ床に胡座をかいて堂々と居座る明は、グッズが綺麗に陳列された棚の一角に目を向ける。そこには水色を基調にデザインされた、中性的な顔立ちでアンニュイなオーラを醸し出したキャラクターのグッズが所狭しと並べられている。
明「なんかグッズ増えた?あの水色頭さんの」
蕾「アイドリズムプリンスの三滝碧くんね。いい加減名前覚えて」
明「最推し?なんだっけ」
蕾「全キャラ魅力的すぎて推しを1人に定めろなんて無理難題に等しいと個人的には思うので正確には箱推しに限りなく近い感覚なんだけども、誰か1人を選べと要求されればそれはもうアイドリの沼にはまるきっかけをくれた碧くんしかいないかと」
明「圧がすごい圧が」
一気に捲し立てる蕾の熱量に圧倒されつつも、明は「ふはっ」と弾けるような笑みを溢す。
明「別に隠す必要ねーと思うけどな、ガッツリオタクやってんの」
蕾「自制心持って生きてんのよこれでも」
明「んーでも、俺は好きだよ?蕾が好きなものを話す時の、心底楽しそーな顔」
蕾「んなっ……!」
明「教科書さんきゅーな。お邪魔しやした~」
いたずらっ子のように白い歯を見せる明は、手を振る代わりに教科書をひらひらさせると、来たときと同じように軽快な動きで自分の部屋へと舞い戻っていく。1人取り残された蕾はわなわなと全身を震わせる。
蕾(落ち着けー落ち着けー、他意はない。一切ない。そんなこと分かっちゃいるけど)
蕾「好っっっっっっっっっっっっっっっっっきやわーーーーーー」
感情の高ぶりを通り越して最早真顔になる蕾。かと思えば次の瞬間、顔中の筋肉をヘナヘナと緩めてその場にしゃがみ込む。
蕾(なんですかあの無邪気な顔は!あれは反則。全細胞が覚醒したわ)
蕾はまさしく恋する乙女の顔で身悶えする。
蕾(朝比奈蕾の極秘事項その①生粋の2次元オタクなこと。そしてその②…幼馴染の優木明に恋をしていること――)
蕾(言えるわけがない)
部屋着に着替えた蕾は、360度フィギュアやらタペストリーやらアクリルスタンドやらのアニメ・漫画・ゲームグッズに囲まれた自室の中心で天井を仰ぐ。
蕾「実はここ数年アニソン・キャラソンしかまともに耳にしていないオタクです……なんて今更言えるわけがないんだよーっ!」
蕾は情けない顔のまま勢いに任せて仰向けにベッドに倒れ込む。
蕾(朝比奈蕾、17歳。表向きは普通の女子高生。しかしその実、人生におけるエネルギーのほぼすべてを推し活に捧げる、2次元を愛しとにかく2次元を愛する典型的なオタク女子――)
蕾「K-POP?洋楽?とか分かんないよ、最近話題のバンドとか知らんよ。こちとらリリース9周年目にもかかわらず何故か1年半しか時が進んでない音ゲーの曲しか聴いとらんのよ。カラオケまじで地獄!」
ベッドの上で枕を抱えてゴロゴロとのたうち回る蕾は突然ムクリと起き上がる。
蕾「よし、一旦頭を冷やそう」
やけにキリッとした蕾はそう呟くやいなやスマホを手にし、ゲームアプリを起動する。一瞬暗転した画面に『アイドリズムプリンス!』というタイトルコール・文字とともに数々のイケメンキャラクター達が現れる。
蕾「きゃー!みんな今日もかっこいい♪安定の供給に感謝感激」
頭を冷やすどころかむしろテンション上げ上げで画面を拝む蕾が背にする窓が、コンコンっと外から叩かれる。スマホから顔を上げた蕾は特に驚く様子もなくカーテンと窓を開ける。窓の向こうには、ぴったり面するように設計された隣の家の窓の縁に両手を付き、上半身を乗り出す明の姿が。
明「蕾ー数IIの教科書貸ーして。学校に忘れちった」
中学時代のジャージ(部屋着)を着た明はそう告げると、慣れた手つきで自分の身体を持ち上げ窓枠の上に足をかけて軽やかに蕾の部屋へと飛び移る。「よいしょ」とカーペットに着地した明は「おぉ~」と室内を見回す。
明「何度見ても壮観だな……あ、蕾の初恋泥棒だ。お久しぶりです」
蕾「その言い方やめい」
黒髪センター分けのキャラの缶バッジやアクスタに向かって深々と一礼する明。その頭を蕾が教科書でスパァンと軽くはたく。
明「あれ?この漫画の3巻どこ?俺も読みたい」
蕾「あーそれは今凪に貸し出し中」
明「んじゃ、その次俺予約ね!」
目的を果たしても帰る素振りを見せず、むしろ床に胡座をかいて堂々と居座る明は、グッズが綺麗に陳列された棚の一角に目を向ける。そこには水色を基調にデザインされた、中性的な顔立ちでアンニュイなオーラを醸し出したキャラクターのグッズが所狭しと並べられている。
明「なんかグッズ増えた?あの水色頭さんの」
蕾「アイドリズムプリンスの三滝碧くんね。いい加減名前覚えて」
明「最推し?なんだっけ」
蕾「全キャラ魅力的すぎて推しを1人に定めろなんて無理難題に等しいと個人的には思うので正確には箱推しに限りなく近い感覚なんだけども、誰か1人を選べと要求されればそれはもうアイドリの沼にはまるきっかけをくれた碧くんしかいないかと」
明「圧がすごい圧が」
一気に捲し立てる蕾の熱量に圧倒されつつも、明は「ふはっ」と弾けるような笑みを溢す。
明「別に隠す必要ねーと思うけどな、ガッツリオタクやってんの」
蕾「自制心持って生きてんのよこれでも」
明「んーでも、俺は好きだよ?蕾が好きなものを話す時の、心底楽しそーな顔」
蕾「んなっ……!」
明「教科書さんきゅーな。お邪魔しやした~」
いたずらっ子のように白い歯を見せる明は、手を振る代わりに教科書をひらひらさせると、来たときと同じように軽快な動きで自分の部屋へと舞い戻っていく。1人取り残された蕾はわなわなと全身を震わせる。
蕾(落ち着けー落ち着けー、他意はない。一切ない。そんなこと分かっちゃいるけど)
蕾「好っっっっっっっっっっっっっっっっっきやわーーーーーー」
感情の高ぶりを通り越して最早真顔になる蕾。かと思えば次の瞬間、顔中の筋肉をヘナヘナと緩めてその場にしゃがみ込む。
蕾(なんですかあの無邪気な顔は!あれは反則。全細胞が覚醒したわ)
蕾はまさしく恋する乙女の顔で身悶えする。
蕾(朝比奈蕾の極秘事項その①生粋の2次元オタクなこと。そしてその②…幼馴染の優木明に恋をしていること――)



