○翌日・グラウンド
昼下がりのグラウンドにはドッチボールやハンドボール、サッカーのコートが所狭しと設置されている。9月上旬とは言えどもうだるような暑さが残る中、雫は賑やかなグラウンドの一角で蹲る。
雫「もう嫌だぁ。これ以上醜態を晒す前に出家したい」
蕾「んな大袈裟な。私の妹は平安貴族かなにか?」
雫「だってぇ」
両手で顔を覆いメソメソと泣き言を溢す雫と、その横で汗を拭う蕾。2人の脳内に先ほどまでの雫の運動音痴っぷりがフラッシュバックする。(サッカーボールを蹴ろうとして空振りしたり、バレーボールをレシーブしようとするものの顔面に直撃したりする描写)
雫「蕾ちゃん午後から私の代わりに試合出てっ」
蕾「こら優等生っ」
雫「大丈夫!一卵性だからバレないっ」
蕾「あんた同一人物とは思えないほど大胆よね、たまに」
雫の哀願を軽く受け流す蕾はふと遠くに視線を投げる。
蕾「別にあそこまで目立てって言ってるわけじゃないんだからさ」
蕾の視線の先では『どりゃあああ!!』と、凄まじい気迫と共にサッカーボールを蹴る明の姿が。豪快に、それでいて美しいフォームで振り抜いた脚から放たれた豪速球は見事にゴールネットを揺らす。
明「よっしゃあ!」
クラスメイト①「うおおお!!ハットトリックだああああ」
クラスメイト②「マジでサッカー部入れよお前才能の無駄遣いも甚だしい」
クラスメイト③「一周回って腹立ってきた」
明「なんでよ!?もっと俺を褒めてよ!!」
わいわいと友達に囲まれて楽しそうな明とは対照的に落ち着いた呟きが雫の隣から上がる。
凪「ほんと気が重いよね……」
当然のように並んでしゃがむ凪の突然の登場に、揃って肩を跳ね上がらせる雫と蕾。
雫(いつの間に……)
蕾「凪運動神経いいじゃん。まぁ明はちょっと規格外だけども」
凪「そこなんだよぉ。双子だからっておんなじレベルの活躍期待されてんの、俺ら二卵性なのに」
雫「安心して。この世には一卵性でも運動能力に天と地ほどの差がある双子だっているから」
蕾「いや、私だって人並みよ?こういうイベントごとが好きってだけで」
「にしてもあっつ」と、ポニーテールによって顕になったうなじに汗を滴らせる蕾。その横でお茶を飲もうとした雫は、水筒の中身が既に空になっていることに初めて気付く。
雫「私、ちょっとお水買ってくるね」
蕾「いってらー」
大勢の人の隙間を縫いながら自販機目掛けて歩く雫に、すっと人影が近付いてくる。
小梅「お供しますぞ」
雫「あれ小梅ちゃん、保健委員は?」
小梅「幸い負傷者ゼロで手持ち無沙汰な次第」
保健委員の腕章を付けた小梅は死んだ魚のような目でボソっと呟く。
小梅「ていうか冷静に考えてボールを投げるだの蹴るだのして競う行事って何?我ら運動音痴にとってはいかに球に接触せずに一日をやりすごすかという息をひそめる技量が問われる催しでしかないんですけども。何?私に呼吸をするなと??」
止まらぬ愚痴に圧倒されている間に体育館裏の自動販売機の前に到着した雫は、お金を入れ指先を空中で迷わせる。もう一台の自販機の前では、メイクが華美なギャル風の女子生徒が2人が会話を弾ませている。
派手な女子生徒①「優木兄弟、まじヤバくね?」
派手な女子生徒②「メイが運動できんのは周知の事実だけどさ、ナギの方がギャップ萌え」
派手な女子生徒①「まじそれな!?ふわふわ系かと思いきやバキバキに動けるあの感じ最高っ!何気イケメンだし」
次第に遠のいていく会話を背景に、雫の正面の機械からガコンと商品が落下する音がする。しかし雫はペットボトルを取り上げずにグッと唇をつぐむ。悔しそうな切なさそうな形容し難い表情のまま静止して動かない友人に小梅は仕方なさそうに微笑む。
小梅(そんな可愛い顔しちゃって)
小梅「もういい加減認めちゃえばいいのでは?優木兄のこと」
雫「……幼馴染だよ。ただの、普通の」
小梅「そう?私には意地張ってるようにしか見えないけども。もっと正確に言うなら、本音を建前でコーディングしまくってる感じ?」
小梅はしゃがみ込み出口に横たわっている水を取り出すと、雫のおでこにトンと底を押し付ける。
小梅「素直なのが雫の取り柄なんだから。自分のありのままの心の声、ちゃんと聴いてあげてよ。せっかくのチャームポイントが泣いちゃうよ?」
雫「小梅ちゃん……」
友人の少し厳しくも愛のある言葉を噛み締めるように、雫は小さく「ありがとう」と呟く。
小梅「じゃ、私はそろそろ戻りますので」
救護テント前で小梅と別れた雫は1人でグラウンドに続く階段を降りる。
昼下がりのグラウンドにはドッチボールやハンドボール、サッカーのコートが所狭しと設置されている。9月上旬とは言えどもうだるような暑さが残る中、雫は賑やかなグラウンドの一角で蹲る。
雫「もう嫌だぁ。これ以上醜態を晒す前に出家したい」
蕾「んな大袈裟な。私の妹は平安貴族かなにか?」
雫「だってぇ」
両手で顔を覆いメソメソと泣き言を溢す雫と、その横で汗を拭う蕾。2人の脳内に先ほどまでの雫の運動音痴っぷりがフラッシュバックする。(サッカーボールを蹴ろうとして空振りしたり、バレーボールをレシーブしようとするものの顔面に直撃したりする描写)
雫「蕾ちゃん午後から私の代わりに試合出てっ」
蕾「こら優等生っ」
雫「大丈夫!一卵性だからバレないっ」
蕾「あんた同一人物とは思えないほど大胆よね、たまに」
雫の哀願を軽く受け流す蕾はふと遠くに視線を投げる。
蕾「別にあそこまで目立てって言ってるわけじゃないんだからさ」
蕾の視線の先では『どりゃあああ!!』と、凄まじい気迫と共にサッカーボールを蹴る明の姿が。豪快に、それでいて美しいフォームで振り抜いた脚から放たれた豪速球は見事にゴールネットを揺らす。
明「よっしゃあ!」
クラスメイト①「うおおお!!ハットトリックだああああ」
クラスメイト②「マジでサッカー部入れよお前才能の無駄遣いも甚だしい」
クラスメイト③「一周回って腹立ってきた」
明「なんでよ!?もっと俺を褒めてよ!!」
わいわいと友達に囲まれて楽しそうな明とは対照的に落ち着いた呟きが雫の隣から上がる。
凪「ほんと気が重いよね……」
当然のように並んでしゃがむ凪の突然の登場に、揃って肩を跳ね上がらせる雫と蕾。
雫(いつの間に……)
蕾「凪運動神経いいじゃん。まぁ明はちょっと規格外だけども」
凪「そこなんだよぉ。双子だからっておんなじレベルの活躍期待されてんの、俺ら二卵性なのに」
雫「安心して。この世には一卵性でも運動能力に天と地ほどの差がある双子だっているから」
蕾「いや、私だって人並みよ?こういうイベントごとが好きってだけで」
「にしてもあっつ」と、ポニーテールによって顕になったうなじに汗を滴らせる蕾。その横でお茶を飲もうとした雫は、水筒の中身が既に空になっていることに初めて気付く。
雫「私、ちょっとお水買ってくるね」
蕾「いってらー」
大勢の人の隙間を縫いながら自販機目掛けて歩く雫に、すっと人影が近付いてくる。
小梅「お供しますぞ」
雫「あれ小梅ちゃん、保健委員は?」
小梅「幸い負傷者ゼロで手持ち無沙汰な次第」
保健委員の腕章を付けた小梅は死んだ魚のような目でボソっと呟く。
小梅「ていうか冷静に考えてボールを投げるだの蹴るだのして競う行事って何?我ら運動音痴にとってはいかに球に接触せずに一日をやりすごすかという息をひそめる技量が問われる催しでしかないんですけども。何?私に呼吸をするなと??」
止まらぬ愚痴に圧倒されている間に体育館裏の自動販売機の前に到着した雫は、お金を入れ指先を空中で迷わせる。もう一台の自販機の前では、メイクが華美なギャル風の女子生徒が2人が会話を弾ませている。
派手な女子生徒①「優木兄弟、まじヤバくね?」
派手な女子生徒②「メイが運動できんのは周知の事実だけどさ、ナギの方がギャップ萌え」
派手な女子生徒①「まじそれな!?ふわふわ系かと思いきやバキバキに動けるあの感じ最高っ!何気イケメンだし」
次第に遠のいていく会話を背景に、雫の正面の機械からガコンと商品が落下する音がする。しかし雫はペットボトルを取り上げずにグッと唇をつぐむ。悔しそうな切なさそうな形容し難い表情のまま静止して動かない友人に小梅は仕方なさそうに微笑む。
小梅(そんな可愛い顔しちゃって)
小梅「もういい加減認めちゃえばいいのでは?優木兄のこと」
雫「……幼馴染だよ。ただの、普通の」
小梅「そう?私には意地張ってるようにしか見えないけども。もっと正確に言うなら、本音を建前でコーディングしまくってる感じ?」
小梅はしゃがみ込み出口に横たわっている水を取り出すと、雫のおでこにトンと底を押し付ける。
小梅「素直なのが雫の取り柄なんだから。自分のありのままの心の声、ちゃんと聴いてあげてよ。せっかくのチャームポイントが泣いちゃうよ?」
雫「小梅ちゃん……」
友人の少し厳しくも愛のある言葉を噛み締めるように、雫は小さく「ありがとう」と呟く。
小梅「じゃ、私はそろそろ戻りますので」
救護テント前で小梅と別れた雫は1人でグラウンドに続く階段を降りる。



