○放課後・廊下
雫(そんなはずありましたっ……!!なにより今の今まで無自覚でやってた自分が怖い)
想像以上に小梅に指摘された通りの行動をとっている自分に恥ずかしさを覚え、顔を両手で覆いながらとぼとぼと下足室へ向かう。
雫(けどやっぱり『好きだから』とかそういうのでは決して……そもそも恋愛という概念自体に対する造詣が浅いのに)
思わず眉根に皺を寄せて考え込む雫。ふと窓の外に目をやると、そこには班員達と笑い合いながら校舎裏の掃除をこなす凪の姿が。
雫(また――)
立ち止まり、2階から凪の横顔を見つめる雫の真隣から、底抜けに明るい色の声が飛んでくる。
明「ちょいとそこのお嬢さん」
見れば、2年7組の窓から身を乗り出す明の姿が。その指先にはスティック状のチョコ菓子が一本摘まれており、雫が振り向くのと同時に、にゅっと口に押し込まれる。
雫「!?」
明「ははっ、ウサギみてー。うまい?」
突然のことに目を見開き慌てながらも、サクサクと小刻みにチョコを口に含んでいく雫はコクコクと頷く。
明「廊下見たらえらく難しい顔した幼馴染がいたからさ、思わず。糖分補給大事大事ー」
明は自分もお菓子を咥えながら、言葉を続ける。
明「なんかあったんなら相談しろよー、雫はすぐ思い詰める上に1人で溜め込むからさ」
雫「うん、ありがとう」
さりげなく心配をしてくれている明の言葉に微笑む雫。教室を離れた雫はほぼ反射的に先程と同じ窓の外を眺める。そこにはもう凪の姿はない。
雫(そうだよね、変に意識しても仕方ない。いつも通り『幼馴染』でいるのが1番だもんね)
雫は顔を上げ、鞄を肩に掛け直す。
○翌日・家庭科室
「今日はミシンの続きをするので2人1組になって……」と先生が授業の指示を出す傍ら、4人がけのテーブルに座る雫の目元にはクマが色濃く浮かんでおり、疲労感に満ちたオーラを纏っている。
雫(って、昨日仰々しく決意したはずなのになぁ。結局思考が冴え渡って全然眠れなかったなぁ)
ふぅ、と小さく溜息を吐く。
雫(改めて思う。傍から見ればきっと些細なこと。なのに、どうして私はこれほどまでに頭を悩ませているのだろう。『幼馴染』としてあることを願っているはずの心の奥底で、一体どんな答えが出ることを求めているのだろう――)
配布されたプリントに落としていた視線を上げた雫は、クラスメイトがペア作りに勤しんでいる状況に愕然とする。
雫(やっちゃった、完全に出遅れた!)
2人組がどんどん出来ていく中、あわあわと周囲を見渡す雫の肩にポン、と手が置かれる。
凪「しずく良かったらペア組んでくれない?気付いたら俺余っちゃっててさ」
雫「凪くん〜〜〜っ」
『今日女子も男子も奇数でしょ?』とにこやかに申し出る凪の登場に、雫は安堵の気持ちを全面に滲ませながら目を輝かせる。
凪が動き出すのを察知して敢えて雫を誘わなかった小梅は、その様子を見てニマニマしながらガッツポーズを取る。
空いている席にミシンを置き、凪と並んで座った雫ははたとあることに気付く。
雫(凪くん人気者だからいつも真っ先に誰かに声をかけられてるのに。今日に限って『余る』なんてこと)
そこまで考えて、ハッと静かに目を見開く。
雫(もしかして、私が1人で困ってたから……?)
隣では凪が真剣な面持ちで慎重に糸をミシンにセットしている。
雫「優しいなぁ」
思わずポツリと呟きが漏れた雫を、凪が「ん?」と不思議そうに小首を傾げて見つめる。
雫「あっいやその。凪くんのみんなに分け隔てなく優しいところ、格好いいな、憧れるなぁって」
凪「あはは、どしたの急にー」
雫「そっそうだよね、変なこと言ってごめんね」
雫は両手をぶんぶんと小さく左右に振り、僅かに赤らんだ頬を隠すように少し俯く。
雫(言葉にしてみて、初めて気付いた。私、凪くんのこと『格好いい』って思ってるんだ――)
スカートの裾をギュッと握る雫の側で、不意に『ズダダダダダッ……!!』とおおよそミシンからしてはいけない危険な音が発生する。
凪「ねーしずくー。なんかこのミシン異様にやる気満タンじゃない?」
雫「ん?って、わああー!!待って待って!あ、足!とりあえずペダルから足離してっ」
凪「あし?」
目にも止まらぬ速さで稼働するミシンを前にしても何故かふわふわしている凪が平然と布を塗っていくの急いで止めに入る雫。
雫(そんなはずありましたっ……!!なにより今の今まで無自覚でやってた自分が怖い)
想像以上に小梅に指摘された通りの行動をとっている自分に恥ずかしさを覚え、顔を両手で覆いながらとぼとぼと下足室へ向かう。
雫(けどやっぱり『好きだから』とかそういうのでは決して……そもそも恋愛という概念自体に対する造詣が浅いのに)
思わず眉根に皺を寄せて考え込む雫。ふと窓の外に目をやると、そこには班員達と笑い合いながら校舎裏の掃除をこなす凪の姿が。
雫(また――)
立ち止まり、2階から凪の横顔を見つめる雫の真隣から、底抜けに明るい色の声が飛んでくる。
明「ちょいとそこのお嬢さん」
見れば、2年7組の窓から身を乗り出す明の姿が。その指先にはスティック状のチョコ菓子が一本摘まれており、雫が振り向くのと同時に、にゅっと口に押し込まれる。
雫「!?」
明「ははっ、ウサギみてー。うまい?」
突然のことに目を見開き慌てながらも、サクサクと小刻みにチョコを口に含んでいく雫はコクコクと頷く。
明「廊下見たらえらく難しい顔した幼馴染がいたからさ、思わず。糖分補給大事大事ー」
明は自分もお菓子を咥えながら、言葉を続ける。
明「なんかあったんなら相談しろよー、雫はすぐ思い詰める上に1人で溜め込むからさ」
雫「うん、ありがとう」
さりげなく心配をしてくれている明の言葉に微笑む雫。教室を離れた雫はほぼ反射的に先程と同じ窓の外を眺める。そこにはもう凪の姿はない。
雫(そうだよね、変に意識しても仕方ない。いつも通り『幼馴染』でいるのが1番だもんね)
雫は顔を上げ、鞄を肩に掛け直す。
○翌日・家庭科室
「今日はミシンの続きをするので2人1組になって……」と先生が授業の指示を出す傍ら、4人がけのテーブルに座る雫の目元にはクマが色濃く浮かんでおり、疲労感に満ちたオーラを纏っている。
雫(って、昨日仰々しく決意したはずなのになぁ。結局思考が冴え渡って全然眠れなかったなぁ)
ふぅ、と小さく溜息を吐く。
雫(改めて思う。傍から見ればきっと些細なこと。なのに、どうして私はこれほどまでに頭を悩ませているのだろう。『幼馴染』としてあることを願っているはずの心の奥底で、一体どんな答えが出ることを求めているのだろう――)
配布されたプリントに落としていた視線を上げた雫は、クラスメイトがペア作りに勤しんでいる状況に愕然とする。
雫(やっちゃった、完全に出遅れた!)
2人組がどんどん出来ていく中、あわあわと周囲を見渡す雫の肩にポン、と手が置かれる。
凪「しずく良かったらペア組んでくれない?気付いたら俺余っちゃっててさ」
雫「凪くん〜〜〜っ」
『今日女子も男子も奇数でしょ?』とにこやかに申し出る凪の登場に、雫は安堵の気持ちを全面に滲ませながら目を輝かせる。
凪が動き出すのを察知して敢えて雫を誘わなかった小梅は、その様子を見てニマニマしながらガッツポーズを取る。
空いている席にミシンを置き、凪と並んで座った雫ははたとあることに気付く。
雫(凪くん人気者だからいつも真っ先に誰かに声をかけられてるのに。今日に限って『余る』なんてこと)
そこまで考えて、ハッと静かに目を見開く。
雫(もしかして、私が1人で困ってたから……?)
隣では凪が真剣な面持ちで慎重に糸をミシンにセットしている。
雫「優しいなぁ」
思わずポツリと呟きが漏れた雫を、凪が「ん?」と不思議そうに小首を傾げて見つめる。
雫「あっいやその。凪くんのみんなに分け隔てなく優しいところ、格好いいな、憧れるなぁって」
凪「あはは、どしたの急にー」
雫「そっそうだよね、変なこと言ってごめんね」
雫は両手をぶんぶんと小さく左右に振り、僅かに赤らんだ頬を隠すように少し俯く。
雫(言葉にしてみて、初めて気付いた。私、凪くんのこと『格好いい』って思ってるんだ――)
スカートの裾をギュッと握る雫の側で、不意に『ズダダダダダッ……!!』とおおよそミシンからしてはいけない危険な音が発生する。
凪「ねーしずくー。なんかこのミシン異様にやる気満タンじゃない?」
雫「ん?って、わああー!!待って待って!あ、足!とりあえずペダルから足離してっ」
凪「あし?」
目にも止まらぬ速さで稼働するミシンを前にしても何故かふわふわしている凪が平然と布を塗っていくの急いで止めに入る雫。



