鏡映しのマリアージュ

堺「朝比奈!」

そこには屋台の脇に立つ堺(2話登場。蕾に想いを寄せている男子)の姿があった。

蕾「堺、来てたんだ。奇遇だね~」
堺「そう、だな」

軽いノリの蕾に反し緊張した様子の堺は、ガバリと頭を下げ蕾に手を差し出す。

堺「まつり!一緒に回ってくれませんか…っ」
蕾「へ?」
堺「休憩の間だけでも!!」
蕾「ん~~」

蕾は必死で切実なクラスメイトの願いをあっさり断ることもできず困る。その横から凪が凛然と一歩前に踏み出す。

凪「君はつぼみのこと、好きなの?」
堺「好……っとかそういうわけでは」

瞬時に顔全体を上気させてごにょごにょする堺。凪は蕾の手を取り、不敵な笑みを浮かべる。

凪「じゃあ、ダメ」

凪は面食らった堺を放置して、蕾を連れて小走りで人混みへと溶けていく。真剣そのものの横顔で思い出すのはやはり、告白時の雫の姿だった。

凪(あのとき言葉を失った。何を言っても繊細な心を手折ってしまう気がした。だって…よく知ってるから。いくら顔や背格好が一緒でもたった1人に焦がれる想いも、その人が振り向いてくれない苦しさも、人一倍)

続いて脳裏に蘇るのは、金木犀の雨を背景に『応援している』と涙を呑んで告げた雫。凪は決心したように眉毛を引き締める。

凪(せめて、健気な勇気と決意を無下にすることだけはしたくない)

理由もわからず手を引かれる蕾は、幼い頃とは手を引く方・引かれる方が逆転した状況に、先程までの暗さが一気に消し飛んだように吹き出す。底抜けに明るい笑い声に合わせて、ポニーテールが軽やかに宙を泳ぐ。