鏡映しのマリアージュ

雫「……好きな人が、いるの」

不意打ちに凪は「え」と雫の方を振り返る。目を潤ませる雫は、慈母のような温かい眼差しで凪と真っ直ぐに向かい合う。

雫「みんなに優しい、堪らなく格好いい人。昔からずっと側にいてくれた憧れの人」

その言葉に、かつて雫が自分に向けて言ったこと(1話『凪くんのみんなに分け隔てなく優しいところ、格好いいな、憧れるなぁって』)が脳裏に蘇る凪。開放された窓から流れ込む、金木犀の花びらを乗せた風が凪の艷やかな髪の毛を巻き上げる(いつも凪いでいる心が初めて大きくなびいた瞬間の情景描写)。

雫「でも私の好きなその人はお星様みたいに素敵な子のことが好きで。多分、私が恋に落ちるよりもうんと前から」

雫も席から立ち、窓辺で静止する凪の方へと歩み寄る。

雫「正直ね、思ったの。『こんなの絶対敵わない』って。『私がどれだけ見つめたとしても振り向いてくれるわけがない』って」

窓の縁に手を付き、凪を正面から見つめる雫の輪郭がふるふると頼りなさげに揺らぐ。

雫「それでも精一杯背伸びして、一生懸命等身大の恋をした。私の大切な宝物」

風に煽られて溢れかける涙を拭い、無理して笑ってみせる雫。

凪「おれ……」
雫「ここまでが、ひとりごと。ここからは1人の『幼馴染』として」

言葉を失い端正な顔を曇らせる凪に、雫は一転して明るい声を上げる。

雫「応援してるよ、凪くんの想いが報われるように。私が一番の味方でいる。私、蕾ちゃんも凪くんも大好きだもん」

涙を目尻に浮かばせながらぎこちない笑顔を作る雫の側で、金木犀(花言葉は『初恋』)が寄り添うように散っていく。