◯夕方・帰り道
駅のホームで電車がやってくるのを待つ明と蕾。蕾はコラボカフェの特典である碧のコースター(ランダム・全15種)を掲げて顔を輝かせている。
明「今日ずっと幸せそうだな」
蕾「そりゃあもう!明が15分の1を引き当ててくれたのも相まって。やっぱくじ運いいね」
明「やっぱり?」
蕾「実はこの前、うたた寝してる明の指を拝借して10連ガチャ回したのね。そしたらUR3人出たんだから!!」
明「なにそれ初耳なんですけど!?人の身体で勝手に…」
仰天して目をひん剥く明を見て蕾が茶目っ気たっぷりに笑う。駅構内に、まもなく電車が到着するとのアナウンスが流れる。
傾き始めた太陽をバックに『黄色い点字ブロックの内側に下がってお待ち下さい』という放送が鳴る中、ふと寂しさと切なさが入り混じった表情をした蕾が呟く。
蕾「一日どうだった?」
視線を空中に投げた明は「んー」と短く考える素振りを見せる。
明「俺はさ、4人でいる時間が大好きなのね」
蕾「……」
明「でも」
斜陽が明の屈託のない笑みを照らすのと同時に、電車がホームに流れ込んでくる。
明「蕾と2人っきりで過ごすのも最っ高に楽しかった!!」
ひたすらに明るい言葉に胸を打たれた蕾は、弾むような足取りで黄色い点字ブロックを越える(=現状維持を打破しようとする蕾の心情描写)。電車に乗り込むと、ドア付近でホームに立つ明をくるりと振り返る。
蕾「じゃあまた付き合ってよ!行きたいところまだまだたくさんあるの。『2人』で」
いつにも増して無垢な様子の蕾に、車内に足を進める明はほんのり口の端を持ち上げる。
明「オタクモード全開の蕾についていけるの俺ぐらいだもんな」
蕾「明だってノリノリだったじゃん」
並んで立ち、軽口を叩きあう2人。電車が発車し揺れるのに合わせて、時折肘と肘とが触れる中、蕾は移り変わる窓の外の景色に夢中の明の横顔を見つめる。
蕾(真っ直ぐで純真な、私の好きな人。ひとりじめしたいんじゃない)
トートバッグを握る力が心なしか強くなる蕾の方に、明が不意に首を回す。
蕾(一番素直な私を、ひとりじめしていてほしい――)
交差しそうになる2人の視線。しかし、実際には明の眼差しは蕾を追い越した電子案内表示板に向けられていた。蕾がすねたように唇を尖らせる隣で、明が素っ頓狂な顔をする。
明「あ"あ"っ!」
蕾「え、なに」
焦った蕾も明と同じ方向を見る。と、2人揃ってさああっとみるみる青ざめていく。
蕾「これ反対方向じゃん!!」
明「しかも快速じゃね!?」
アワアワと惑う2人を乗せた電車は動揺もお構いなしに高速で進んでいく。
◯帰宅後・朝比奈家(雫の部屋)
清楚な雰囲気が漂う整理整頓が隅々まで行き届いた部屋のベッドに腰掛ける雫。静けさで満たされた室内に、突然スマホの着信音が響く。画面を見ると、そこには凪からの新着メッセージが表示されていた。
2通に渡るメッセージには『さっき彼氏だって言ったの気にしないでね』『勝手に口走って本当にごめん』と雫を気遣う謝罪が綴られていた。
その文面を読んだ雫はポスン、とベッドの上で横向きに伏せる。
雫「謝らないでよ」
煌々とメッセージを表示させたまま布団の上で握られたスマホが物悲しくなんだか物悲しく映る。
雫「その嘘を本当にしたいって言ったら……どうするの?」
1人虚しく、それでいて微かな希望を内包した願いにも似たその呟きが文字になり送信されることはなかった。
駅のホームで電車がやってくるのを待つ明と蕾。蕾はコラボカフェの特典である碧のコースター(ランダム・全15種)を掲げて顔を輝かせている。
明「今日ずっと幸せそうだな」
蕾「そりゃあもう!明が15分の1を引き当ててくれたのも相まって。やっぱくじ運いいね」
明「やっぱり?」
蕾「実はこの前、うたた寝してる明の指を拝借して10連ガチャ回したのね。そしたらUR3人出たんだから!!」
明「なにそれ初耳なんですけど!?人の身体で勝手に…」
仰天して目をひん剥く明を見て蕾が茶目っ気たっぷりに笑う。駅構内に、まもなく電車が到着するとのアナウンスが流れる。
傾き始めた太陽をバックに『黄色い点字ブロックの内側に下がってお待ち下さい』という放送が鳴る中、ふと寂しさと切なさが入り混じった表情をした蕾が呟く。
蕾「一日どうだった?」
視線を空中に投げた明は「んー」と短く考える素振りを見せる。
明「俺はさ、4人でいる時間が大好きなのね」
蕾「……」
明「でも」
斜陽が明の屈託のない笑みを照らすのと同時に、電車がホームに流れ込んでくる。
明「蕾と2人っきりで過ごすのも最っ高に楽しかった!!」
ひたすらに明るい言葉に胸を打たれた蕾は、弾むような足取りで黄色い点字ブロックを越える(=現状維持を打破しようとする蕾の心情描写)。電車に乗り込むと、ドア付近でホームに立つ明をくるりと振り返る。
蕾「じゃあまた付き合ってよ!行きたいところまだまだたくさんあるの。『2人』で」
いつにも増して無垢な様子の蕾に、車内に足を進める明はほんのり口の端を持ち上げる。
明「オタクモード全開の蕾についていけるの俺ぐらいだもんな」
蕾「明だってノリノリだったじゃん」
並んで立ち、軽口を叩きあう2人。電車が発車し揺れるのに合わせて、時折肘と肘とが触れる中、蕾は移り変わる窓の外の景色に夢中の明の横顔を見つめる。
蕾(真っ直ぐで純真な、私の好きな人。ひとりじめしたいんじゃない)
トートバッグを握る力が心なしか強くなる蕾の方に、明が不意に首を回す。
蕾(一番素直な私を、ひとりじめしていてほしい――)
交差しそうになる2人の視線。しかし、実際には明の眼差しは蕾を追い越した電子案内表示板に向けられていた。蕾がすねたように唇を尖らせる隣で、明が素っ頓狂な顔をする。
明「あ"あ"っ!」
蕾「え、なに」
焦った蕾も明と同じ方向を見る。と、2人揃ってさああっとみるみる青ざめていく。
蕾「これ反対方向じゃん!!」
明「しかも快速じゃね!?」
アワアワと惑う2人を乗せた電車は動揺もお構いなしに高速で進んでいく。
◯帰宅後・朝比奈家(雫の部屋)
清楚な雰囲気が漂う整理整頓が隅々まで行き届いた部屋のベッドに腰掛ける雫。静けさで満たされた室内に、突然スマホの着信音が響く。画面を見ると、そこには凪からの新着メッセージが表示されていた。
2通に渡るメッセージには『さっき彼氏だって言ったの気にしないでね』『勝手に口走って本当にごめん』と雫を気遣う謝罪が綴られていた。
その文面を読んだ雫はポスン、とベッドの上で横向きに伏せる。
雫「謝らないでよ」
煌々とメッセージを表示させたまま布団の上で握られたスマホが物悲しくなんだか物悲しく映る。
雫「その嘘を本当にしたいって言ったら……どうするの?」
1人虚しく、それでいて微かな希望を内包した願いにも似たその呟きが文字になり送信されることはなかった。



