◯その頃・学校
先生「はい、じゃあ今日の講習はここまで。各自解散しとけよー」
黒板に記された古文文法の要項を背にして退室していく担当教員に続いて、土曜講習を受講していた生徒たちが続々と席を後にしていく。そんな中、凪は窓の外に視線を投じたまま一ミリも動かない。
小梅「優木兄はなにゆえ石化しておられるのでしょうか」
無に帰した表情で硬直する凪を離れた席から不安そうに見守る雫に、小梅が訝しげに尋ねる。
小梅「半日ずっとああだったような」
雫「実は今日、蕾ちゃんが明くんとお出かけしてて。そんな時に限って私達は土曜講習の日だったから…」
小梅「好きな人がデート(仮)中かぁ。そりゃあ気が気じゃないね」
雫「ね~……」
全ての合点がいったように頷く小梅は、同調しながらも寂しそうな様子が隠しきれていない雫の両肩を掴む。
小梅「しょうがない云々は一旦置いといて、なーんか悔しくないですか?」
雫「え」
意表を突かれてポカンと呆ける雫に、小梅はにまりと口角を上げたまま荷物を携えて教室から出ていく。
小梅「まあ後は雫次第だよ。『頑張れ』!」
背中を押すように言い残された親友の言葉に雫は胸元で拳を握る。脳裏には勉強会での苦い記憶(蕾を優しく見つめる凪、凪と一緒に買い物に行きたいと言い出せなかった自分)がはっきりと蘇る。
雫(私だって……)
雫は意を決したように、どことなく緊張した面持ちで凪の方へと歩み寄る。
雫「凪くん」
もう数人しか残っていない教室に微かに震えながら響いた呼びかけに、凪が不思議そうに振り返る。
雫(もう、意気地無しは卒業しなきゃ)
雫「このあと2人で、どこか行きませんか……っ」
ギュッと目を瞑り答えを待つ雫の火照りを顔の横から流れる一筋の髪の毛が覆い隠す。
◯昼下がり(映画終了後)
観客の流れに従って7番スクリーンから出てきた蕾と明。空っぽになったポップコーンバケツを抱えた明は一周回って冷静な表情で呟く。
明「やばい。これは間違いなく沼る」
その言葉を待ってましたとばかりに蕾はぴょんぴょん飛び跳ねる。
蕾「でしょでしょ!」
明「スクリーンに映し出されるもの全てが目の保養すぎて……ストーリー普通に泣けるし」
蕾「冷静に考えて目が足りん」
明「それな。最低4つは要る」
完全に意気投合した2人は興奮収まらぬといった風に生き生きとしている。明は入場時に劇場スタッフから配布されたアイドリキャラの集合絵のミニ色紙をうっとりと眺める。
明「観る前は何の情も湧かなかったこの特典でさえ神々しい。マジ家宝」
蕾「ちなみに気になる人なんかは?」
明「いや~蕾の推しも捨てがたいけど、俺はこの人!」
特典の集合絵の中で明が勢いよく指差したキャラは凛とした顔付きをした桃髪が特徴の儚い系イケメンだった。
明「桃髪なんてかわいい系属性一択だと思うじゃん?なのにどうよこの圧倒的美!!そんで蓋を開ければ仲間思いで超絶漢らしいし何より声が極上」
蕾「桃綺くんかあ、わかる超いいっ!」
明「三滝碧とは一生喧嘩してたけどな」
蕾「ライバル同士のただの不仲と思うでしょ?実はそこには胸打つドラマが……」
既に全開のオタクモードに更にエンジンがかかろうとする蕾を、明が無駄にキリッとした表情で制止する。
明「皆まで言うな。現在アプリをインストール中」
蕾(そうやってすぐ布教されてくれる単純なところも愛してる)
内心狂喜乱舞する蕾に、明は「ところで」と新たな話題を切り出す。
明「この後どうする?腹減った!」
蕾「ふっふっふっ、お楽しみはまだまだこれから!」
蕾はいたずらっ子な笑みを浮かべ、明に右手を差し出す。
蕾「今日はとことんエスコートされちゃってくださいな!」
◯同時刻(学校帰り)・近所の駄菓子屋にて
昔ながらの店内で、棚に並んだ色とりどりの駄菓子にうきうきと心を弾ませる凪。その後ろでは雫が悩ましげに頭を抱えている。
雫(高校生男女の寄り道が駄菓子屋さん……果たしてこれは正解?小学生じゃあるまいしそれこそ俗に言う放課後デートみたいな)
凪「わあっ懐かし~久しぶりに来たかったんだよねえ」
先ほどまでの落ち込みようが嘘のように晴れやかな面持ちの凪に、肩を落としていた雫はふっと頬を緩める。
雫(なんでもいいか。凪くんと一緒ならなんでも、どこでも)
気を取り直した雫はお菓子を入れる用の小さな籠を凪に手渡し、隣で物色し始める。
雫「あ、これ凪くん好きだったよね」
凪「そうそう。どっちが先に当たり券出せるか明と競ってた」
雫「途中から蕾ちゃんも張り合ってたよね」
凪「そんなこともあったね~。話の種に買って帰ろうかな」
思い出話に花を咲かせながら籠にお菓子を放り込んでいく凪は、ある商品を見つける。
凪「……あ!」
凪はそう溢すと、何かを閃いたように嬉々としてその商品を手に取る。レジでの会計を終えた2人はパンパンに膨れ上がったビニール袋を携えながら、店先のベンチに揃って腰を下ろす。
先生「はい、じゃあ今日の講習はここまで。各自解散しとけよー」
黒板に記された古文文法の要項を背にして退室していく担当教員に続いて、土曜講習を受講していた生徒たちが続々と席を後にしていく。そんな中、凪は窓の外に視線を投じたまま一ミリも動かない。
小梅「優木兄はなにゆえ石化しておられるのでしょうか」
無に帰した表情で硬直する凪を離れた席から不安そうに見守る雫に、小梅が訝しげに尋ねる。
小梅「半日ずっとああだったような」
雫「実は今日、蕾ちゃんが明くんとお出かけしてて。そんな時に限って私達は土曜講習の日だったから…」
小梅「好きな人がデート(仮)中かぁ。そりゃあ気が気じゃないね」
雫「ね~……」
全ての合点がいったように頷く小梅は、同調しながらも寂しそうな様子が隠しきれていない雫の両肩を掴む。
小梅「しょうがない云々は一旦置いといて、なーんか悔しくないですか?」
雫「え」
意表を突かれてポカンと呆ける雫に、小梅はにまりと口角を上げたまま荷物を携えて教室から出ていく。
小梅「まあ後は雫次第だよ。『頑張れ』!」
背中を押すように言い残された親友の言葉に雫は胸元で拳を握る。脳裏には勉強会での苦い記憶(蕾を優しく見つめる凪、凪と一緒に買い物に行きたいと言い出せなかった自分)がはっきりと蘇る。
雫(私だって……)
雫は意を決したように、どことなく緊張した面持ちで凪の方へと歩み寄る。
雫「凪くん」
もう数人しか残っていない教室に微かに震えながら響いた呼びかけに、凪が不思議そうに振り返る。
雫(もう、意気地無しは卒業しなきゃ)
雫「このあと2人で、どこか行きませんか……っ」
ギュッと目を瞑り答えを待つ雫の火照りを顔の横から流れる一筋の髪の毛が覆い隠す。
◯昼下がり(映画終了後)
観客の流れに従って7番スクリーンから出てきた蕾と明。空っぽになったポップコーンバケツを抱えた明は一周回って冷静な表情で呟く。
明「やばい。これは間違いなく沼る」
その言葉を待ってましたとばかりに蕾はぴょんぴょん飛び跳ねる。
蕾「でしょでしょ!」
明「スクリーンに映し出されるもの全てが目の保養すぎて……ストーリー普通に泣けるし」
蕾「冷静に考えて目が足りん」
明「それな。最低4つは要る」
完全に意気投合した2人は興奮収まらぬといった風に生き生きとしている。明は入場時に劇場スタッフから配布されたアイドリキャラの集合絵のミニ色紙をうっとりと眺める。
明「観る前は何の情も湧かなかったこの特典でさえ神々しい。マジ家宝」
蕾「ちなみに気になる人なんかは?」
明「いや~蕾の推しも捨てがたいけど、俺はこの人!」
特典の集合絵の中で明が勢いよく指差したキャラは凛とした顔付きをした桃髪が特徴の儚い系イケメンだった。
明「桃髪なんてかわいい系属性一択だと思うじゃん?なのにどうよこの圧倒的美!!そんで蓋を開ければ仲間思いで超絶漢らしいし何より声が極上」
蕾「桃綺くんかあ、わかる超いいっ!」
明「三滝碧とは一生喧嘩してたけどな」
蕾「ライバル同士のただの不仲と思うでしょ?実はそこには胸打つドラマが……」
既に全開のオタクモードに更にエンジンがかかろうとする蕾を、明が無駄にキリッとした表情で制止する。
明「皆まで言うな。現在アプリをインストール中」
蕾(そうやってすぐ布教されてくれる単純なところも愛してる)
内心狂喜乱舞する蕾に、明は「ところで」と新たな話題を切り出す。
明「この後どうする?腹減った!」
蕾「ふっふっふっ、お楽しみはまだまだこれから!」
蕾はいたずらっ子な笑みを浮かべ、明に右手を差し出す。
蕾「今日はとことんエスコートされちゃってくださいな!」
◯同時刻(学校帰り)・近所の駄菓子屋にて
昔ながらの店内で、棚に並んだ色とりどりの駄菓子にうきうきと心を弾ませる凪。その後ろでは雫が悩ましげに頭を抱えている。
雫(高校生男女の寄り道が駄菓子屋さん……果たしてこれは正解?小学生じゃあるまいしそれこそ俗に言う放課後デートみたいな)
凪「わあっ懐かし~久しぶりに来たかったんだよねえ」
先ほどまでの落ち込みようが嘘のように晴れやかな面持ちの凪に、肩を落としていた雫はふっと頬を緩める。
雫(なんでもいいか。凪くんと一緒ならなんでも、どこでも)
気を取り直した雫はお菓子を入れる用の小さな籠を凪に手渡し、隣で物色し始める。
雫「あ、これ凪くん好きだったよね」
凪「そうそう。どっちが先に当たり券出せるか明と競ってた」
雫「途中から蕾ちゃんも張り合ってたよね」
凪「そんなこともあったね~。話の種に買って帰ろうかな」
思い出話に花を咲かせながら籠にお菓子を放り込んでいく凪は、ある商品を見つける。
凪「……あ!」
凪はそう溢すと、何かを閃いたように嬉々としてその商品を手に取る。レジでの会計を終えた2人はパンパンに膨れ上がったビニール袋を携えながら、店先のベンチに揃って腰を下ろす。



