鏡映しのマリアージュ

◯土曜日・朝比奈家

姿見の前で入念に身だしなみのチェックをした蕾は「……よしっ」と気合を入れる。

小さく1つ深呼吸をし玄関のドアを開ける蕾。同時に優木家から明が出てくる。

蕾・明「あ」

奇跡の一致にお互い吹き出しながら家の前で合流する2人を、すっきりとした秋晴れが迎え入れる。

明「珍しく時間ぴったりじゃん。朝寝坊で有名な蕾さん」
蕾「それは明もでしょ」
明「よっぽど楽しみにしてたんだなっ」
蕾「そりゃあまぁうん。色々と」

明から視線を逸らしモゴモゴと答える蕾。

蕾(17年幼馴染やってても2人きりで出掛けるのは中々……自分から誘っといてなんだけど緊張する)

駅に向かって歩き出す中密かにバクバクと鼓動が速まる蕾。やがて最寄り駅に着き、2人は電車に揺られながら小さな声で会話する。

明「てかめっちゃ今更だけど、俺映画大丈夫そ?辛うじて水色頭は認識してるレベル」
蕾「そこは心配ご無用!ゲームでストーリー履修済みでも気付いたらアニメ3周はしてる私が保証する」
明「じゃあ期待大だ」

座席に腰を下ろす蕾の前でつり革を持って立つ明は、裏表のない笑顔を浮かべる。そんな明に、蕾はトートバッグ(アイドリ公式グッズ)の持ち手に付けたマスコットを「そして……」と見せつける。

蕾「じゃ~ん♪明の取ってくれた碧くんも連れてきました~」

蕾は手のひらサイズのぬいぐるみが収まった丸いクリアケースを満面の笑みで顔の前に掲げる。蕾はふわりと結った三つ編みハーフアップに、膝丈のデニムワンピにレース生地の小物を上手く組み合わせたカジュアルガーリーな装いをしている。

明(なんか変な感じ)

光り輝く笑顔といつもとは少し違う服装の融合に若干照れた様子の明は無言で蕾にデコピンをする。完全に照れ隠しのための行動だが、蕾からしたら何の脈絡もない奇行でしかない。

蕾「何よ急に」
明「ちょ、ソールの硬い靴で蹴るな!痛えって」
蕾「因果応報~」

そんなやり取りをしているうちにお互いの緊張が解れた様子の2人はすっかり力の抜けた表情をしている。

◯ショッピングモール内の映画館フロア

チケット確認の列に並ぶ蕾は、前後左右もれなくアイドリのグッズを身に着けた人(主に女性)で溢れかえっている状況に感激する。

蕾(すごい、同志がこんなにも!普段語り合う仲間がいない分余計に嬉しいっ)

両手を口元に当てて必死に感動を抑え込む蕾の横で、明が購入したばかりのポップコーンを次々と口へ運んでいく。

明「バター醤油うまっ」
蕾「あ、キャラメルじゃないの」
明「絶対そういうと思ってハーフハーフにしときました~」
蕾「天才か?」
明「俺ってばできる幼馴染だからさ☆」

予約済みの席に座りながら、明は薄暗い館内を見回す。

明「てか、映画館の割りにはみんなやたら大荷物じゃね?」
蕾「おっ勘がいいねえ」

ホクホク顔の蕾は「てってれってれー」とトートバッグから2本のペンライトを取り出す。全く同じデザインをしたペンライトには王冠の意匠が施されている。

明「ペンライト?映画鑑賞に??」

そのうちの1本を見るからに混乱した様子の明に手渡すと、蕾は得意げに解説を始める。

蕾「本作は原作屈指の人気エピソード『ステージバトル編』の映像化となっておりまして、なんとライブパートは応援大歓迎という有り難い仕様に!!」
明「本物のコンサートみたいだな」
蕾「そうなの!決して超えられない次元という名の手強い障壁を超越できちゃうこの喜びといったらもう……」
明「俺ペンラ初体験だわー。色って自由に切り替えれるのな」

チカチカとカラフルな光を点滅させながら試しにペンライトを振ってみる明。単純な性格が功を奏し、どんどん童心に返っていった明はきらきらと瞳を輝かせる。

明「なんか……すでに楽しくなってきた」
蕾「適応能力高っ」