鏡映しのマリアージュ

◯10分後・スーパーの出口
スーパーから出てきた蕾と凪は、1つのエコバッグの持ち手を片方ずつ持って歩く。

凪「俺1人で持つよ……?」
蕾「これでいいのっ!」
凪「でも全く重くないし」
蕾「いーいーのっ」
蕾(私は今卵の安否に関わる重大な責任を片手に宿してるんだよ)

戸惑う凪を蕾は頑として突っぱねる。そのため、まるで小さい子のおつかい帰りのような風景を制服姿の高校生2人が生み出すというちぐはぐな結果になる。

いつもとは異なる距離の近さにやや緊張する凪は、ほとんど無意識で脚を進めるスピードを緩める。ぎこちなさに気付いた蕾がぱちくりと瞬きしながら凪の方に振り向く。

蕾「もっと速く歩いていいよ?私合わせるから」
凪「……ううん。このままでいい」
凪(このままがいい。ほんの少しでも2人きりの時間を増やしたい)

はにかむ凪に「そっか」と特に反論することもなく、蕾もゆっくりと歩調を合わせる。

行きは下ってきた坂を、今度は一歩一歩踏みしめるように上る。すっかり暗くなった空には、星が処々にちらちらと瞬いている。

凪(空模様が移り変わるのに合わせて流れる時間。それには逆らえないけれど。このままここで時が止まってしまえばいい)

その時不意に「わあ~っ!」と明るい蕾の歓声が上がる。空の一点を見上げ指差す蕾は爛々とした表情で凪を振り返る。

蕾「今の流れ星じゃない!?見たっ!?」

勢い余って前方に駆け出した蕾に釣られるように、エコバッグで繋がれた方の身体から前のめりに引っ張られる凪。

そのなんとも純真無垢な姿に、凪は過去の出来事を再度想起する。光り輝く満面の笑みで振り返った女の子(蕾)に手を引かれる男の子(凪)と現在の2人の様子が重なる描写。

星よりも明るい輝きに釘付けになる凪は、蕾を真っ直ぐに見つめる。

凪「星が綺麗ですね」

普段は穏やかな瞳に浮かんだ、珍しく意志の強く籠もった淑やかな光が蕾の心を揺さぶる。

蕾「うん?そうだね。え、なんで敬語?」
凪「……なんでも~」

『星が綺麗ですね』は『あなたに憧れています。あなたはこの気持ちを知らないでしょうね』という切ない恋心を表す言葉。その意味を知っていた上で口にした凪とは対照的に、頭の上に?マークを浮かべる蕾は「まあいいか…」と夜空に視線を戻す。

恥ずかしさともどかしさを同時に抱える凪は、流れ星を待ち望む蕾の横顔を見る。たおやかに吹く夜風が蕾のカールした髪の毛の先をそっと揺らす。

凪(時間は止まってくれない。だけどその代わり、艶やかな髪の毛が愉快に揺れる度、どんな星よりも明るく煌めく瞳に見つめられる度、俺は何度でも君に新しい恋をする)


◯同時刻・朝比奈家リビング
テレビの前のソファに並んで座る明と雫。明が無心でカチャカチャとコントローラーを動かす一方、雫は何も手にせず、異世界を冒険するRPGが映し出される画面を食い入るように見つめる。

明「雫、楽しい?」
雫「うん、すっごく。自分でやるより面白い」
明「そっか……」
雫「まさか主人公が仲間に裏切られるなんて。これは波乱だよ」

真剣な面持ちでキャラクター達を見守る雫に、明はこっそりツッコむ。

明(こういうとこほんと双子だわ)

ストーリーだけを追うという一種のオタク的な楽しみ方をする雫は、主人公である勇者がアップにされるカットを目にしてふと呟く。

雫「この主人公、明くんに似てるよね」
明「えっそう?」
雫「仲間想いなところとか、いつも前向きなところとか」
明「じゃあ雫はこの妖精だなっ」
雫「うーん、この愛くるしさは私というより蕾ちゃんじゃ」

にっこり微笑んでいた雫は明の指差す、主人公の隣で羽ばたくガーリーな見た目をした妖精の姿に首を捻る。しかし明はカラっとした面持ちで言葉を紡ぐ。

明「だって俺がこの勇者なら、困った勇者をそれとなく導いてくれる優しい妖精は雫じゃね?万が一蕾だったら一緒になって露頭に迷いそう」

思いがけぬ称賛に雫は「ふふふっ」と嬉しそうに頬をほころばせる。と、その時「ただいまー」という声とともに、凪と蕾が揃って扉から姿を表す。