◯スーパーまでの道
夕日が差し込み橙に染まる街を蕾と凪は並んで歩く。
凪「ついてきてくれてありがとう」
蕾「んーん。ちょうど気分転換したかったし」
蕾(本当は無事に卵を持って帰ってこれるかが心配だっただけなんだけど……)
小学生の頃、おつかいの帰りに凪が転んだ拍子に卵を割りカオスな状況になった出来事が脳内に蘇る蕾。真横ではすっかりいつもの柔らかな表情に戻った凪が「確かに結構頭使ったもんね~」と、大きく伸びをする。その様子に、蕾はふっと口角を上げる。
蕾「偉いね凪は」
凪「ん?」
蕾「普段はふわふわしてるけど、今回みたいにここぞという時はちゃんとお兄ちゃんやってるもん」
凪「もっと褒めて~」
蕾「えらいえらい!」
少し屈んで上目遣いで甘える凪の頭を蕾がわしゃわしゃっと撫でる。子犬のように無邪気に「へへへ」と笑いを溢した凪は、落ち着いた調子で口を開く。
凪「俺は小さい頃から明の天真爛漫さに助けられてきたから。せめてもの恩返しのつもり」
蕾「ポジティブと社交性と天衣無縫さを足したまま割らなかった結果生まれたのが明だからね」
凪「逆に俺は怖がりで泣き虫で、何するにしても3人の後ろに隠れてた」
蕾「今思えば最高にかわいいけどね」
凪「ずっとそばに居てくれて、心の底から感謝してるんだよ。明はもちろん、雫にも蕾にも」
凪はそこで言葉を区切ると、傾く西日に視線を投げる。
凪「だからこそ、ちゃんと幸せに笑っていてほしいって願ってる」
蕾「それは……ちょっとわかるかも」
先日の雫との会話(2話)を思い出した蕾は凪のセリフに共感し、同じ方向に目をやる。足元には下り坂が広がる場所で2人並んで見る空は暖色系のグラデーションに見事に染まっている。
蕾「綺麗だね~なんかこう掴めちゃいそう」
凪「太陽を?」
蕾「太陽を。こうね、まるっと」
右手を真っ直ぐ伸ばして握ったり開いたりを繰り返す蕾。その幼気な姿に凪は思わず吹き出す。
凪「……すごいなあ」
凪は静かに呟くと、蕾の真似をしてスラリとした陶器のように美しい手のひらを陽の光にかざす。2つ仲良く並んだ大小異なる手に、蕾はふと感嘆の声を上げる。
蕾「わあ!凪の手、知らない間に大きくなってる!」
凪「そうかな?」
蕾「ちょっと前までは一緒ぐらいだったのに!身長なんか私の方が高かったのに!」
凪「それって大分前の話でしょ」
可笑しそうに目を細める凪の手がそっと蕾の手に重ねられる。関節1つ分は余裕でサイズに差がある手のひらが夕日に包み込まれる。
凪「蕾の手が小さいんじゃない?」
蕾「それはない。間違いなく凪が成長した!」
むんっと胸を張り断言する蕾は「成長といえば」と新たな疑問を呈する。
蕾「さっきの続きじゃないけど、凪、いつの間にか泣き虫治ってたよね。今ではすっかり爽やかボーイなわけだけど何かきっかけでもあったの?」
一瞬見開いた凪の瞳に、すぐに何かを懐かしむようにまつ毛が覆い被さる。蹲り両目いっぱいに涙を溜めた幼稚園生の男の子(凪)が眩しいばかりの弾ける笑顔を向ける同い年の女の子(蕾)を見上げて少し驚いたように顔を上げるシーンの描写(凪視点の記憶)。
凪「それは……」
含みをもたせる凪は、小さな指先を包むように自分の指をそっと絡ませる。
凪「今はまだ、内緒」
囁くように空気を震わせた凪の表情はどことなく大人びている。ポカンとする蕾に先駆けて、ぎゅっと握った手をするりと解いた凪は「早く行かなきゃ」と止めていた脚を再び前に進め出す。
蕾(なにゆえ手を)
他人の体温の余韻が残る指先を中途半端に浮かせたまま凪の背中を見つめる蕾。
凪(顔が熱い。きっと夕日のせいだ)
言い訳がましくそう唱える凪の頬は、ついさっきまでの気品ともいえる落ち着きを忘れたように年相応に赤らんでいた。
◯同時刻・優木家リビング
ノートと向かい合ってしかめっ面をする明に、雫が丁寧に勉強を教えている。
雫「ここは問1で使ったのと同じ公式を使って」
明「こう?」
雫「そうそう!後はこれを計算すれば」
明「おぉ!解けた……!!」
ノートを目の前に掲げて感動する明に雫はパチパチと控えめに拍手を送る。
雫「じゃあ次はこの問題」
明「おうっ!」
やる気満タンで一心不乱に問題に取りかかる明を微笑ましく見守る雫は、右隣の空っぽになった2席を横目で見やる。それとともに、先ほど凪について行きたいと言い出せずに口をもごもごさせるだけだった情けない自分を思い出し、がっくり項垂れる。
雫(あそこでちゃんとアピールできてれば今頃……頑張るって決めたのにいつまで経っても意気地なしなんだから)
数分前の自分を悔いて雫が落ち込んでいると、明がペンを走らせながら口を開く。
明「ごめんなあ。こんな馬鹿に付き合わせて」
雫「そ、そんなことっ!」
暗いオーラを出してしまっていたのかと不安になった雫はハッとし、慌てて首と両手を左右に振る。
明「双子なのになーんで俺だけ容量悪いんだろうな。凪はなんでもそつなくこなすのに」
明はぐで―んと背もたれに体重を預け、疲れ切った様子で天井を仰ぐ。
明「おかげでみんなに迷惑かけちまう。4人でいるときはいつでも楽しくいたいのに」
雫「……ふふっ。おかしな明くん。迷惑だって思ったことなんて一度もないよ。凪くんも蕾ちゃんも、絶対に」
珍しくきっぱりと言い切る雫に、明は不思議そうに体勢を元に戻す。
雫「確かに明くんのために企画した勉強会だけど、なんだかんだ言ってこの4人で集まるのが好きなんだよ、みんな」
明「それは俺も!」
雫「でしょう?だからある意味明くんが私達を繋いでくれてると言っても過言ではないんじゃないかな」
明「雫は優しいなあぁぁ」
幼馴染の愛のある言葉に瞳をうるうるさせて感激する明。そんな明の手の側面がシャーペンの芯に擦れて黒ずんでいるのを雫が発見する。
雫「ずっと集中してたし、一回休憩しようか」
明「マジで!?やった!」
一気に顔に生気が戻った明は一瞬でテレビ台の方へ移動し、高揚を隠しきれない様子で雫の方を振り返る。
明「雫の優しさを見込んで1つ提案。一緒にゲームしよ?」
雫「えっ、それはさすがに」
明「ちょっとだけ!2人が帰ってきたらすぐやめるから!!」
パンっと両手を合わせて低姿勢で哀願する明に敵わず、雫はムムム…と眉根を寄せつつも「わかった」と頷き承諾する。
更に心を弾ませる明は某レースゲームや乱闘するゲームなど2人でプレイできるソフトのケースを、トランプの手札のように扇形に並べて雫の面前に提示する。
明「どれやる?どれやる!?」
雫「あ、それなら」
雫は何かを思いついた様子で言葉を口にする。
夕日が差し込み橙に染まる街を蕾と凪は並んで歩く。
凪「ついてきてくれてありがとう」
蕾「んーん。ちょうど気分転換したかったし」
蕾(本当は無事に卵を持って帰ってこれるかが心配だっただけなんだけど……)
小学生の頃、おつかいの帰りに凪が転んだ拍子に卵を割りカオスな状況になった出来事が脳内に蘇る蕾。真横ではすっかりいつもの柔らかな表情に戻った凪が「確かに結構頭使ったもんね~」と、大きく伸びをする。その様子に、蕾はふっと口角を上げる。
蕾「偉いね凪は」
凪「ん?」
蕾「普段はふわふわしてるけど、今回みたいにここぞという時はちゃんとお兄ちゃんやってるもん」
凪「もっと褒めて~」
蕾「えらいえらい!」
少し屈んで上目遣いで甘える凪の頭を蕾がわしゃわしゃっと撫でる。子犬のように無邪気に「へへへ」と笑いを溢した凪は、落ち着いた調子で口を開く。
凪「俺は小さい頃から明の天真爛漫さに助けられてきたから。せめてもの恩返しのつもり」
蕾「ポジティブと社交性と天衣無縫さを足したまま割らなかった結果生まれたのが明だからね」
凪「逆に俺は怖がりで泣き虫で、何するにしても3人の後ろに隠れてた」
蕾「今思えば最高にかわいいけどね」
凪「ずっとそばに居てくれて、心の底から感謝してるんだよ。明はもちろん、雫にも蕾にも」
凪はそこで言葉を区切ると、傾く西日に視線を投げる。
凪「だからこそ、ちゃんと幸せに笑っていてほしいって願ってる」
蕾「それは……ちょっとわかるかも」
先日の雫との会話(2話)を思い出した蕾は凪のセリフに共感し、同じ方向に目をやる。足元には下り坂が広がる場所で2人並んで見る空は暖色系のグラデーションに見事に染まっている。
蕾「綺麗だね~なんかこう掴めちゃいそう」
凪「太陽を?」
蕾「太陽を。こうね、まるっと」
右手を真っ直ぐ伸ばして握ったり開いたりを繰り返す蕾。その幼気な姿に凪は思わず吹き出す。
凪「……すごいなあ」
凪は静かに呟くと、蕾の真似をしてスラリとした陶器のように美しい手のひらを陽の光にかざす。2つ仲良く並んだ大小異なる手に、蕾はふと感嘆の声を上げる。
蕾「わあ!凪の手、知らない間に大きくなってる!」
凪「そうかな?」
蕾「ちょっと前までは一緒ぐらいだったのに!身長なんか私の方が高かったのに!」
凪「それって大分前の話でしょ」
可笑しそうに目を細める凪の手がそっと蕾の手に重ねられる。関節1つ分は余裕でサイズに差がある手のひらが夕日に包み込まれる。
凪「蕾の手が小さいんじゃない?」
蕾「それはない。間違いなく凪が成長した!」
むんっと胸を張り断言する蕾は「成長といえば」と新たな疑問を呈する。
蕾「さっきの続きじゃないけど、凪、いつの間にか泣き虫治ってたよね。今ではすっかり爽やかボーイなわけだけど何かきっかけでもあったの?」
一瞬見開いた凪の瞳に、すぐに何かを懐かしむようにまつ毛が覆い被さる。蹲り両目いっぱいに涙を溜めた幼稚園生の男の子(凪)が眩しいばかりの弾ける笑顔を向ける同い年の女の子(蕾)を見上げて少し驚いたように顔を上げるシーンの描写(凪視点の記憶)。
凪「それは……」
含みをもたせる凪は、小さな指先を包むように自分の指をそっと絡ませる。
凪「今はまだ、内緒」
囁くように空気を震わせた凪の表情はどことなく大人びている。ポカンとする蕾に先駆けて、ぎゅっと握った手をするりと解いた凪は「早く行かなきゃ」と止めていた脚を再び前に進め出す。
蕾(なにゆえ手を)
他人の体温の余韻が残る指先を中途半端に浮かせたまま凪の背中を見つめる蕾。
凪(顔が熱い。きっと夕日のせいだ)
言い訳がましくそう唱える凪の頬は、ついさっきまでの気品ともいえる落ち着きを忘れたように年相応に赤らんでいた。
◯同時刻・優木家リビング
ノートと向かい合ってしかめっ面をする明に、雫が丁寧に勉強を教えている。
雫「ここは問1で使ったのと同じ公式を使って」
明「こう?」
雫「そうそう!後はこれを計算すれば」
明「おぉ!解けた……!!」
ノートを目の前に掲げて感動する明に雫はパチパチと控えめに拍手を送る。
雫「じゃあ次はこの問題」
明「おうっ!」
やる気満タンで一心不乱に問題に取りかかる明を微笑ましく見守る雫は、右隣の空っぽになった2席を横目で見やる。それとともに、先ほど凪について行きたいと言い出せずに口をもごもごさせるだけだった情けない自分を思い出し、がっくり項垂れる。
雫(あそこでちゃんとアピールできてれば今頃……頑張るって決めたのにいつまで経っても意気地なしなんだから)
数分前の自分を悔いて雫が落ち込んでいると、明がペンを走らせながら口を開く。
明「ごめんなあ。こんな馬鹿に付き合わせて」
雫「そ、そんなことっ!」
暗いオーラを出してしまっていたのかと不安になった雫はハッとし、慌てて首と両手を左右に振る。
明「双子なのになーんで俺だけ容量悪いんだろうな。凪はなんでもそつなくこなすのに」
明はぐで―んと背もたれに体重を預け、疲れ切った様子で天井を仰ぐ。
明「おかげでみんなに迷惑かけちまう。4人でいるときはいつでも楽しくいたいのに」
雫「……ふふっ。おかしな明くん。迷惑だって思ったことなんて一度もないよ。凪くんも蕾ちゃんも、絶対に」
珍しくきっぱりと言い切る雫に、明は不思議そうに体勢を元に戻す。
雫「確かに明くんのために企画した勉強会だけど、なんだかんだ言ってこの4人で集まるのが好きなんだよ、みんな」
明「それは俺も!」
雫「でしょう?だからある意味明くんが私達を繋いでくれてると言っても過言ではないんじゃないかな」
明「雫は優しいなあぁぁ」
幼馴染の愛のある言葉に瞳をうるうるさせて感激する明。そんな明の手の側面がシャーペンの芯に擦れて黒ずんでいるのを雫が発見する。
雫「ずっと集中してたし、一回休憩しようか」
明「マジで!?やった!」
一気に顔に生気が戻った明は一瞬でテレビ台の方へ移動し、高揚を隠しきれない様子で雫の方を振り返る。
明「雫の優しさを見込んで1つ提案。一緒にゲームしよ?」
雫「えっ、それはさすがに」
明「ちょっとだけ!2人が帰ってきたらすぐやめるから!!」
パンっと両手を合わせて低姿勢で哀願する明に敵わず、雫はムムム…と眉根を寄せつつも「わかった」と頷き承諾する。
更に心を弾ませる明は某レースゲームや乱闘するゲームなど2人でプレイできるソフトのケースを、トランプの手札のように扇形に並べて雫の面前に提示する。
明「どれやる?どれやる!?」
雫「あ、それなら」
雫は何かを思いついた様子で言葉を口にする。



