鏡映しのマリアージュ

唇を尖らせてそっぽを向き明の言葉に噛みつく素振りを見せるも、どこか嬉しさを隠しきれていない様子の蕾。

蕾「それでなんの用……」

気を取り直した蕾がそう言い終える前に、明が蕾の頭の上に何か柔らかい物体を乗せる。

明「ぷれぜんとふぉーゆー」
蕾「これっ!」

明が渡したのは、クレーンゲームの景品の碧くんのぬいぐるみだった。蕾は両手に包まれるように収まるぬいぐるみにパアッと顔を輝かせる。

明「クレーンゲームって楽しいのな、つい夢中になっちった」
蕾「取るの難しかったでしょ」
明「ん~あー……特に?」
蕾(嘘。明だって超がつくほどの不器用なくせに)
蕾「ありがとう」

頬をほんのり赤らめながら、心底喜んでいることの現れのように唇に込めた力を緩める蕾。明はニカッと白い歯を見せると、窓枠に頬杖を突く手とは反対の手で蕾の頭をポンポンする。

明「やっぱ俺好きだわ、その顔」

裏表のない快活な笑顔に心を射抜かれた蕾は手のひらの中からこちらを見上げるぬいぐるみにそっと力を込め、ぽそりと呟く。

蕾「……私も好き」
明「ん?なんか言った?」

不思議そうに瞬きをする明の方に蕾は上半身を乗り出す。

蕾(自分をさらけ出す勇気がなくても、可愛げがなくても。好きな人が好きだと伝えてくれる私を、私も大切にしたい。せめてあなたの前では、素直でいられる私になりたい――)

明の手の横に自分の手を添えた蕾は、少し緊張した面持ちで口を開く。

蕾「あのね。もしよかったら、なんだけど。今度のテスト終わったらアイドリの映画観に行こ!……2人で」

一生懸命な様子の蕾に明は髪の毛をぴょんと跳ねさせて、気持ちの良い笑顔で応える。

明「喜んで!」

和やかに心を通じ合わせる2人を、家と家の間から漏れ入る月明かりがじんわりと照らし出す。