涙の向こう側


それから1週間後の退院日、上谷先生は本当にわたしを迎えに来てくれた。

「荷物は?」
「何もないです。」
「じゃあ、行こうか。」

そう言って病室から出て行こうとする上谷先生。

しかし、わたしは重い足がなかなか前に出なかった。

それに気付いた上谷先生は振り向くと、「どうしたの?」と言った。

「あのぉ、、、お恥ずかしい話なんですが、、、入院費を払うお金が、、、無くて、、、。」

わたしがそう言うと、上谷先生は「あぁ、そのことか。」と明るく言うと、「そのことなら心配しなくても大丈夫だよ。俺がもう会計して来たから。」と言った。

「えっ?!でも、お返し出来るお金なんて無いです、、、。」
「返して欲しいなんて思ってないよ。僕の家においでって言ったのは、俺の方なんだから。ただ、吹田さんにはお願いしたいことがあるんだ。それは、あとで話すね。」

上谷先生はそう言うと、「さあ、帰ろう?」と言い、わたしの背中に手を添えた。

帰ろう、、、

わたしに、帰る場所がある。

そう思うと、何だが嬉しさよりも泣きたい気持ちになった。

でも、涙は出ない。

わたしは上谷先生について行き、上谷先生と共に帰宅をしようとしたのだが、その前にわたしの自宅に寄ってもらった。

わたしがどうしても自宅から持って行きたかった物は、夫の写真と赤ちゃんのエコー写真だった。