涙の向こう側


精神科に入院になってから、わたしは毎日ナースステーション前のホールへ行き、窓の側に椅子を持って行って、一日中座って窓の外を眺めていた。

何を見ているでもない、何を思うでもない。

ただただ、ぼんやりしていた。

すると、「あのぉ。」と声を掛けられ、鈍い反応でわたしは声がした方を向いた。

そこには、30代半ばくらいの男性が立っていた。

あれ、この人、、、どこかで見たことある。

「ふくだえみりさん、ですよね?」

その男性はそう言った。

名前、合ってる。

わたしの名前は"吹田笑莉"と書くのだが、大体は"ふきだえり"と呼ばれるのに、この人は何でわたしの名前の読み方を知ってるの?

手首に付けている名前入りバンドは漢字で書かれているのに。

「何で、わたしの名前知ってるんですか?」

わたしがそう訊くと、その男性は「以前、お会いしたことがあるんですけど、、、覚えてませんか?」と言った。

そこで、わたしは思い出した。

この人、、、

「うえや、先生?ですか?」

わたしの言葉に彼は微笑み、「正解です。」と答えた。