「そういえば、吹田さんって上谷先生のお宅に住込みで働いてるんですよね?ご主人は、単身赴任とかなんですか?」
黒木さんの何気ない言葉に、わたしは一瞬喉がつかえたように息が止まった。
既婚者だって思われるのも当然。
だって、わたしは、、、まだ結婚指輪をしているんだから。
「、、、主人は、半年前に亡くなりました。」
「えっ、、、」
「それでわたし、、、死のうとしたんです。でも失敗しちゃって。その入院先で上谷先生に会って、今に至る感じなんですけど。」
「もしかして、吹田さん、、、一度うちに受診したことあります?」
黒木さんの言葉にわたしが「はい。」と答えると、黒木さんはわたしが受診した日のことを思い出したようで、「あの日、上谷先生、、、凄く心配していました。あの吹田さんって患者さん、大丈夫かなぁって。」と言った。
「その時、先生にも言われました。気になってたって。それで先生には色々お世話になって、今こうして生きているんですけど、、、最近のわたし、おかしいんです。」
「おかしいって?」
「主人のことを愛しているのに、、、こないだ、先生にお弁当を届けに来た時、過呼吸になってしまって、、、先生に抱きしめられて宥められた時、凄く安心したんです。わたし、、、おかしいですよね。」
わたしがココアを淹れる手を止めそう言うと、黒木さんは少し黙り込んでから「おかしくないですよ。」と優しい口調で言った。
「人間の心って難しいですよね、、、。でも、それって、吹田さんが上谷先生を慕ってるってことなんじゃないですか?」
「でも、わたしには、、、」
「吹田さんの葛藤する気持ちも凄く分かります。愛する人がいるのに、なんで?って。でも、心に従っていいんじゃないですか?旦那さんは、吹田さんにずっと一人で孤独に生きろ!なんて言う人ですか?」
黒木さんにそう言われて、わたしは首を横に振ると共に夢で明人に言われた言葉を思い出した。
"幸せになれ"
わたしはそれを思い出し、涙が溢れてきた。



