涙の向こう側


優作さんのクリニックで看護助手として働き始め、ひと月が経った頃。

わたしは慣れたとまではいかないが、問診の流れやコツなどを掴み始めていた。

そして、わたしが初めて問診した小倉さんが、カウンセリング希望でやって来て、話を聞くと、最近転職をして体調も落ち着いてきたとの事だった。

「今の職場は、子どもがいることに理解があって、とても働きやすいです。」
「良かったですね!思い切って転職して正解でしたね!」
「はい。体調も落ち着いて来て、夜も眠れるようになったので、上谷先生にそろそろ減薬しても大丈夫かもしれないねと言っていただきました。今まで何件か心療内科を回りましたが、親身になって話を聞いてくださる病院はここだけです。だから、回復に向かってるのは、上谷先生と吹田さんのおかげだと思っています。ありがとうございます。」

小倉さんはそう言うと、頭を下げ、それから顔を上げると笑顔を見せてくれた。

最初は涙でいっぱいだった表情が、今では明るく、話すテンポもスムーズで心が回復してきているのが伝わってくる。

小倉に笑顔が戻って、本当に良かった。

カウンセリングのあと、わたしは休憩室に入り、ココアを淹れようとしていた。

すると、休憩室のドアが開き、黒木さんが入って来た。

「あ、黒木さん。お疲れ様です。」
「お疲れ様です。小倉さん、減薬になったみたいですね。」
「はい、本人も喜んでいました。」
「精神疾患は、薬だけでは治りませんからね。やっぱりカウンセリングって大事なんだなぁって、回復していく患者さんたちを見ていると感じます。」

黒木さんはそう言うと、わたしの隣で玄米茶のティーパックを開けた。

「わたしも数年前までは、心に闇を持っていた人間なので、分かるんです。」
「え?黒木さんが?」
「そうなんですよ?実は。でも、夫のおかげで立ち直れました。」

黒木さんはそう言ってマグカップにティーパックを引っ掛け、ポットのお湯を注ぎながら、愛おしそうな表情を浮かべていた。