どれだけそうしていたか分からない。

落ちていた静寂を破ったのは私だった。

「...なんでとめたの」

彼は一瞬目をぱちくりさせてから何やら腑に落ちた表情になって言った。

「んー...、とめたかったから?」

「なにそれ。とめたくなかったらとめないの?」

「たぶん。」

なにやら少しズレている彼の回答に笑いがこみ上げる。

「...ふ、ふふ...」

「えぇ...?」

さっきまで死のうとしていた私が、今度は笑っている。
わけがわからないといったふうに怪訝な目で彼は見つめるけど、私の笑いは止まらない。

「ふははっ!ふ、普通さ?死のうとしてる人見たら止めるでしょ...っ...ふふふ」


「……っふ、ふははは!」


しばらく不思議そうに私を見つめたあと、彼も面白そうに笑い始めた。

ネオンの町に、笑い声が響く。

「…ふぅ、まあ、なに。……ありがとう。」

「…いいえ。」


2人だけの屋上、何を話すでもなく、何をするでもなく。

ただそばにいて、熱を分け合って。

たまに顔を見合せて、笑って。

さっき会ったばかりのはずなのに、なんなら私はさっきまで死のうとしていたはずなのに。

私たちは何をしてるんだろう。

「別にいいじゃん?意味がなくたって。」

「……え?」

「…なんでも。」


意味がなくたって、それでいい。
この時間に意味があるとか、無いとか、
今、そんなことを考える必要はない。

「…そうだね。」

彼の腕の中、そっと呟いて私は夜空を見上げた。